約 758,488 件
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16138.html
それは私に向けられた言葉ではあったけど、 きっと和自身にも向けられた言葉でもあったと思う。 どんな結果になっても、後悔はしたくない。 それは世界の終わりが近くなくても当たり前の事だったけど、 世界の終わりが近いからこそ、よくある言葉だけど重く心に残る言葉になった。 「確かに後悔は、したくないな……。 もう残り少ない時間だけど、せめて自分の気持ちに正直に……。 最後まで……」 後悔は、したくない。 和の手の温かさを感じながら、思う。 おかげで一つだけだけど、答えも出せた。 「決めたよ、和」 「決まったの?」 「ライブだけど、土曜日の夕方にする事にする」 「それでいいのね?」 「ああ」 私が言うと、和は頷いて、私の答えを受け入れてくれた。 本当は金曜日の夕方にライブをした方がいいんだろう。 私もそう思わなくはないし、和もそっちの方がいいと考えてるはずだ。 でも。 金曜日じゃ、間に合わない。 今のままの私たちじゃ、どうやっても満足のいくライブは出来ない。 絶対、悔いの残るライブになってしまうだろうから。 そう思ったから。 私は土曜日の夕方に、最後のライブをする事に決めた。 勿論、一日の猶予じゃ、ライブの出来にそう変わりはないかもしれないけど……。 少しでも私達の目指す「歴史に残すライブ」に近付けるのなら、そうするべきなんだ。 私は後悔はしたくないし、誰にも後悔させたくない。 ライブを見に来てくれる人は大幅に減るだろう。 今のところ三十人くらいを呼ぶ予定だけど、何しろ世界の最後の日の前日の事だ。 誰にだって私達のライブなんかより大切な予定があるだろうし、それは仕方のない事だと思う。 大体、土曜日の夕方にライブをする事自体、私の我儘なんだ。 ライブに来れない人達を責める事なんて出来ない。 最低、本当に数少ない身内だけのライブになる可能性も大きいな。 憂ちゃんはまず間違いなく来てくれるだろうけど、 放任主義の私の家族はどうなるかは分からないな。 聡にだって最後に何か予定があるかもしれないし。 それも仕方なかったし、それでいいんだと私は思った。 私達は最後に私達の満足のいくライブをやりたい。 多分それが世界の終わりに対して出来る、私の最後の抵抗だ。 「ねえ、律」 不意に和が温かい指を私の指に強く絡める。 強く強く、包んでくれる。 私は少し気恥ずかしい気分になりながら、でも訊ねた。 「どうしたんだ、和?」 「私、軽音部の最後のライブ、絶対見に行くから」 「いいのか?」 予定とか大丈夫か? 私がそう言うより先に、和は優しく静かに頷いてくれた。 「スケジュールは絶対に空ける。 貴方達のライブ、絶対に見届けるわ。 見届けたいもの。唯が夢中になった音楽の魅力を。 唯を夢中にしてくれた律の音楽をね」 「そんな大したもんじゃ……」 「ううん、そんな事ないわ。 動機はどうであっても、律はぼんやりしてた唯の生きる理由を見つけてくれた。 そのきっかけになってくれた。そんな音楽を律は作ってくれた。 あんまり上手くなくても、お茶ばかりしてても、 それは全部、貴方達の音楽に、放課後ティータイムに必要なものだったんだって思うもの。 だから、見届けたいのよ、私のためにもね」 和の言葉に私は目を伏せてしまう。 滅多に自分の音楽について褒められた事がないから、 嬉しいんだか恥ずかしいんだか、どうにも身体中がむず痒かった。 その私の気恥ずかしさも察したんだろう。 本当に気の利く和は微笑んで、自分の制服のポケットの中から何かを取り出した。 何かと思えば、それは澪ファンクラブの会員証だった。 「それに私、ファンクラブの会長だしね。 会長として、澪の演奏も見ておきたいしね。 勿論、律の演奏も楽しみにしてるわ」 「律義だよなー、和も……」 「『律』に『義』を通すから、『律義』ってところかしらね」 「また和がボケた!」 「たまにはね」 ボケはボケなんだけど、 ちょっと難しくて理知的なところが和らしく、それがおかしくて私は軽く笑った。 和も微笑んでいた。 その笑顔は不安を拭い切れていなかったかもしれないけど、私達は笑い合えていた。 世界の終わりまで、あとほんの少し。 それまでに出来る事は本当に少ない。 力のない凡人の私に出来る事は、ライブの成功のために駆け回る事だけだろう。 唯のように天才肌じゃなく、澪みたいな努力家でもなく、 梓やムギみたいな幼い頃からのサラブレッドでもなく、単に部長ってだけの私。 軽音部の中で一番足を引っ張ってるのは、多分私なんだろうって自覚はある。 でも、私は部長だから。 こんなんでも部長だから、最後くらいは部のために何かをしないといけないと思う。 何かを……、出来るだろうか……? いいや、やるんだ。やらなきゃいけないんだ。 これが無理を出来る最後の機会なんだ。 ここで無理をしなきゃ、きっと私は世界の最後の日まで後悔をし続ける事になる。 「大丈夫よ」 和が私に視線を向けて力強く言った。 励ましでも気休めでもなく、心の底からそう思ってくれているみたいだった。 「律なら大丈夫。 それに梓ちゃんも、律の事を大好きだと思うわよ」 「「大好き」……って、流石にそれは言い過ぎだろ……。 せめて「嫌いじゃない」くらいならいいな、って私も思うけどさ……」 「ううん。梓ちゃんは絶対に律の事が「大好き」だと思うわ。 だから、言えないのよ、色んな事が。 本当に辛い事ほど、「大好き」な人には言えないものだから……」 そうかな、と言おうと口を開いて、私はすぐに口を閉じた。 そうだったな。 和は唯が「大好き」だから顔を合わせられなくて、 私も多分、澪が「大好き」だから逃げ出しちゃったんだ。 梓も、そうなんだろうか……? こう思うのは不謹慎過ぎるけど、そうだったらいいな、と私は思った。 もしもそうだとしたら、私の手がまだ梓に届くかもしれないから。 まだ梓の力になれるんだから。 ○ 和は唯達が戻って来るより先に軽音部から出て行った。 生徒会の仕事が残ってるみたいだったし、 唯と顔を合わせるにはまだ心の整理が出来ていないらしかった。 和にもまだ少しだけ迷いが残っているんだろう。 それについて私が和に出来る事はなかったし、逆にしなくていいんだって思った。 和は一人で立ち直れるし、一人で立ち直りたいんだ。 最後まで和が私に助けを求めなかったのは、そういう事なんだと思うから。 私に出来るのは、その和を見守る事だけなんだ。 軽音部から出て行く時、和は私の顔色が悪い事を指摘してくれた。 鞄の中に入れっ放しだった手鏡で自分の顔を見てみると、確かに酷い顔をしていた。 別に和との会話で疲れ果てたってわけじゃない。 さっきまで吐いてたんだから、この顔色はある意味当然だった。 いちごや和のおかげで気分の方は良くなっていたけど、顔色はまだ正直だ。 私は洗面所で顔を洗い、一足先に弁当を食べる事でどうにか顔色を誤魔化す事にした。 それがどれくらい効果があるかは分からないけど、 軽音部の皆の前では少しでも落ち着いた顔をしておきたかった。 弁当を半分くらい食べ終わった頃、唯達が梓を連れて部室に戻って来た。 唯達が梓を探しに行ったのは、今日は昼前から梓が来ているはずだったのに、 全然姿を見せる気配が無かったのを不安に思ったからだそうだった。 その時の唯とムギはいつも通りに見えたけど、澪と梓の様子はどうもよくないように見えた。 とは言っても、澪と梓が昨日の険悪な雰囲気を引きずってるわけじゃなく、 お互いがお互いに別の事を悩んでいるようだった。 まず澪の方は私と目を合わせず、唯やムギとばかり話している。 それも話しているのはイルクーツクとか、カムチャッカとか、 明らかに何かを誤魔化しているような内容ばかりだった。 オカルト研の部室の中の二人の事を考えてしまっているのか、 それとも全く違う事を考えて私から目を逸らしているのか、それは分からない。 梓は梓でまた無理をして笑っていた。 学校を一人でうろついていた事も、今日軽音部に中々顔を出さなかった事も、 「何でもないです」と口癖みたいに繰り返しながら、澪とは違って何度も私の方に視線を向けていた。 声を掛けようとした私の前から逃げ出した事を気にしているんだろう。 それについて、私は梓に何も聞かなかった。 聞かなかった理由は私にも分からない。 今聞くべき事じゃないのは確かだったけど、もしかしたら私もまだ恐かったのかもしれない。 うっかり訊ねてしまって、梓から嫌悪感に満ちた視線を向けられるのが恐かったのかも。 勿論、そうやって恐がり続けていいはずがないし、いつかは梓にそれを訊ねないといけない。 だけど、流石に澪と梓の二人の事を同時に考えるのは、私には出来そうもなかった。 まずは片方の問題から解決しないといけないだろう。 二人とも大切な仲間なんだし、 どちらかに優先順位を付けるのは嫌だったけど、そうも言っていられない。 少し悩んだけど、私はまず澪との問題を解決しようと思った。 澪の方が好きだったから。 ……という理由ならまだよかったのかもしれない。 澪の方を選んだのは、本当はもっと消極的な理由からだった。 簡単な理由だ。 澪との関係に対する問題は、私が勇気を出して澪に訊ねるだけで済む事だ。 それはそれでとても難しい事だけど、少なくとも自分の意志だけでどうにかなる事だった。 それに対して、梓の悩みに関しては私はまだその解決の入口にも立てていない。 梓が何に対して悩んでいるのか、全然見当も付いてない有様だ。 梓は何も言ってくれないし、言ってくれないからこそ、余計に不安が募ってくる。 まさか……、まさかだけど……、こんな事は考えたくないけど……。 家庭内暴力……とか……、麻薬……とか……、強姦……とか……。 悲惨過ぎて逆にリアリティの無い話が、私の頭の中に浮かんで離れなくなる。 まさか、とは思う。 そんなはずがない、とも思う。 でも、今はそういう事が起こってもおかしくない状況で、 梓の様子はそれくらい重大な何かが起こっているようにしか思えなくて……。 もしそうだとしたら、梓の悩みの件は私だけではとても手に負えない。 唯やムギ、それに澪の力を借りなければ、梓を助ける事なんてとても出来ない。 だから、私は勇気を出そうと思った。 まずは澪の考えをはっきりと聞いて、それから梓の問題を少しでも好転させたい。 澪との関係については、多分私の自意識過剰だろう。 澪が私の事を好きだなんて、 そんな事を考えてるなんて事を知られたら、誰からも笑われるだろうな。 女同士とかいう問題以前に、澪が私なんかを好きになるはずがなかった。 澪には、そう、もっと釣り合いの取れた素敵な相手が似合うだろう。 あいつにはそれだけの価値があるんだ。 だからこそ、私はあいつと話そうと思う。 私の我儘で無理に外に連れ出してしまってる事を謝ろう。 寂しいけれど、他に一緒に過ごしたい人が居たら、その人と過ごしてくれていい事を伝えよう。 その結果、澪が私達から離れていく事になっても、私はそれで後悔しないと思う。 友達を無くしたくはないけど、無理して友達でいてもらう事の方が、ずっと辛い事だから。 でも、ひとまず今は全員で演奏をするべき時間だった。 これから離れ離れになってしまうとしても、 五人で居られた時間をもう少しだけでも感じていたかったから。 今の皆の気持ちはバラバラかもしれないけど、その想いだけは一緒だったはずだ。 その日の練習でぎこちないながら完璧に演奏出来たのは『冬の日』。 意識して選んだわけじゃなく、元々、今日練習する予定だった曲で、 澪が作詞したけど、私が没にしたはずの歌詞の曲だった。 澪には悪いとは思ったけど、 自分へのラブレターだと勘違いした歌詞を歌われるなんて、恥ずかしいにも程があるじゃないか。 でも、今日、私達はその曲を演奏していた。 何故かと言うと、ちょっと前、 澪がパソコンに残していた『冬の日』の歌詞を唯が見つけて、 「すごくいい歌詞だから私が歌いたい」と言って譲らなかったんだ。 私が何を言っても唯はその私の言葉を聞かずに、 「逆にりっちゃんはこの曲の何が駄目だと思ってるの?」と言った。 そう言われると私も弱くて、没にするのを断念するしかなかった。 悔しいけど、私も歌詞自体はとても気に入ってたからな。 そんなわけで、私達の曲に『冬の日』が追加される事になったわけだ。 まあ、今は気に入ってる曲で、私も大好きなんだけど……。 よりにもよって今日この日に練習する事になるなんて、何だかとても因縁めいたものを感じてしまう。 ひょっとしたら、澪じゃなくて、私の方が澪を意識してしまってるのかもしれない。 10
https://w.atwiki.jp/niconicojikyouplay/pages/2908.html
【ゲーム】 クロックタワー3(PS2) 【作者名】うなじ、葉っぱ ページ→うなじ・元祖・葉っぱ 【完成度】現在更新中(10/05/07~) 【動画数】 【part1へのリンク】 【マイリストへのリンク】http //www.nicovideo.jp/mylist/18942311 【備考】ハードモードで縛りプレイ。縛り内容はアイテムの使用禁止、敵に対しての聖水禁止(幽霊は可) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16150.html
○ 教室に前後があるかどうかは分からないけど、 教壇の方を前と考えると、二年一組の教室の後ろの扉の前。 梓の居場所を教えてもらった後、純ちゃんと別れた私達はそこに立っていた。 梓の居場所がそのまま梓の教室だなんて、何だか馬鹿みたいに単純な答えだった。 分かってみれば簡単ではあるけど、 純ちゃんに教えてもらえてなければ、私達はこんなに早くここには辿り着けなかった。 ずっと後で辿り着けていたとしても、その時間にはもう梓は教室の中に居なかっただろう。 さっき自分で言った事だけど、 確かにそれは私達と純ちゃんの共同作業のおかげだな、と思った。 そうだ。 ムギの励ましと純ちゃんの想いが無ければ、私はここには辿り着けなかった。 辿り着こうとも思えなかったんじゃないだろうか。 勿論、今の私の支えはその二人だけじゃない。 振り返ってみれば、 私の周りでは色んな人たちが世界の終わりを目の前にして、精一杯生きていた。 人を気遣い、たくさんの人を心配している憂ちゃん。 軽音部のために動いてくれてる和。 強く生きるための笑顔を見せた信代。 関係なく見える誰かと誰かでも、決して無関係ではない事を教えてくれたいちご。 人のために動ける私を嬉しいと言ってくれた聡。 この状況でも自分を変えずに生きている唯。 自分を変えて、私達の関係を変えたいと思っている澪。 あれ? さわちゃんからは何か支えてもらったっけ? ……思い付かない。 突っ込みを鍛えてもらった気はする。 いや、鍛えてもらったっていうか、必然的に鍛えさせられたというか……。 ごめん、さわちゃん。 今度会う時までに考えとくよ。 でも、思った。 多くの人達の生き方が私の胸の中でまだ生きてるんだって。 ほんの小さな支えが重なって、そのおかげで私は今ここにいられるんだって。 だから、進める。 進もうって思える。 緊張して胸が張り裂けそうなほど高鳴るけど、足を動かせる。 震える手を押し留めて、二年一組の教室の扉に手を掛ける事ができる。 後ろにいるムギに私は軽く視線を向けた。 胸の前で拳を握り締め、ムギが強い視線を返してくれる。 頑張って、とその視線は言っているように思えた。 そうだ。頑張らないといけない。 梓の悩みを聞き出すのは、私の役目なんだから。 さっき少し相談して、ムギは教室の中に入らない事に決めていた。 それはもしまた梓が逃げ出しても、 すぐに追いかけられるようにムギが待機しておくって意味もあったけど、 それ以上にムギが私を信じてくれてるのが大きかった。 「りっちゃんが梓ちゃんと話すのが一番いいと思う」ってムギは言った。 「私は口下手だし……」と苦笑交じりにそうも言ってたけど、 私は別にムギが口下手だとは思わない。 確かにムギは私達の中では比較的口数が少なめだし、 自分の想いを難しい言葉なんかで表現する事も少なかったけど、 その分自分の考えを単純な言葉でストレートに表現してくれてると私は思う。 「楽しい」とか、「素敵」とか、「面白い」とか、 ムギの言う言葉は本当に単純で、単純なのが嬉しかった。 自分の気持ちを的確に表現できてるし、そういうのは口下手とは言わないはずだ。 むしろ妙に持って回った言い方をしてしまう私の方こそ、本当に口下手って言えるかもしれない。 それでも、ムギは私に梓を任せてくれた。 私なら梓の悩みを聞き出せると信じてくれた。 「梓ちゃんが一番悩みを話しやすいのは、りっちゃんだと思うから」と言ってくれた。 ムギは教室の外で私達を待つ事に決めてくれた。 その想いに応えられるかどうかは分からない。 だけど、もう私は梓の前から逃げたくなかったから。 自分自身の迷いを断ち切るためにも、梓と正面から向き合いたかったから。 私は梓と話をしたい。話したいんだ。 考えてみれば、この一週間、梓とはろくに会話もできてないしな。 顔を合わせながら、一週間も会話できてないなんて辛過ぎるじゃないか……。 ひょっとしたら、ムギは私のその考えを感じ取ってもくれたのかもしれなかった。 どちらにしろ、私にできるのは進む事だけだ。 ムギにもう一度だけ視線を向けてから、私は教室の扉を引いた。 梓から見えないように、一歩引いてムギが廊下に身体を隠す。 結果がどうなろうと、ムギはそこで待っててくれるだろう。 「頼もう」 小さく呟いて、私は二年一組の教室の中に足を踏み入れる。 何度か来た事のある教室だけど、入り慣れない梓の教室はとても新鮮に見えた。 いや、そんな事は別にどうでもいい。 教室の扉を軽く閉めてから、私はこの教室に居るはずの梓を捜し始める。 梓はすぐに見つかった。 と言うか、すぐ傍に居た。 教室の廊下側、後ろから三番目の梓の席だった。 私は後ろの扉の方から教室に入ったわけだから、 私から数歩ほどしか離れてない距離に梓は座っていた。 だけど、梓は私の存在には一切気付いてないみたいだった。 私は扉を開いて、「頼もう」と呟き、扉を閉めまでしたのに、 梓はその私の動きに全く気付かなかったようで、自分の席で微動たりともしなかった。 ただ両手で頬杖を付いて、何の動きも見せない。 そんな梓の後ろ姿を見て、私はひどく不安になる。 私はこれまで何度も梓に迷惑を掛けてきたと思うし、それで何度も梓に叱られてきた。 生意気な後輩だと思ったけど、同時に私に突っ掛かって来る梓の姿が嬉しかった。 その梓が私に文句の一つも言わずに、自分の中に悩みを抱え込んでいるなんて。 ずっと逃げ出してた私の姿に気付かないほど、胸の中の悩みに支配されてるなんて……。 この数日で何度も梓から逃げられてしまった私だけど、 そんな抜け殻みたいな梓の姿を見る方が、逃げられるよりも何倍も辛かった。 何とかしないと……。 私が……、何とかしないと……! 唇を閉じ、私は梓との数歩の距離を縮めるために足を動かす。 一歩。 梓が何を悩んでいるのかは分からない。 二歩。 純ちゃんの言うように、本当に軽音部の事を悩んでいるんなら、多分その原因は私だろう。 三歩。 私が原因なら、私はもう梓の目の前から消えよう。それで梓の悩みが晴れるんなら、それもいい。 四歩。 だけど、最後のライブは梓に参加させてやりたい。きっとそれが梓の心の支えになる。 五歩。 そうなると私は最後のライブには参加できなくなるのか。ドラムだけ録音しておくべきか? 六歩。 嫌だ! 本当は私も梓と一緒にライブに参加したい。皆と曲を合わせたいんだ! そのためには……。 そのために私がするべき事は……! 「……確保」 私は手を伸ばし、梓の頬杖の左腕を軽く掴む。 梓に私の存在を気付かせるために、 それ以上に私の中の不安感を振り払うために、それは必要な行動だった。 「えっ……?」 突然の事に驚いた梓が身体を震わせる。 自分の手を掴んだのが誰なのかを確認するために、私の方に視線を向ける。 梓と私の視線が合う。 その一瞬に、気付いた。 梓の顔がひどくやつれ果ててる事に。 頬は軽くこけ、目には深い隈が刻まれて、自慢のツインテールも左右非対称だ。 元気が無いとは思っていたけど、こんなにやつれてるなんて私は気付いてなかった。 気付けなかったのは、ずっと梓が私から視線を逸らしていたからだ。 それでも、梓が視線を逸らすだけなら、私は梓のやつれた顔に気付けたはずだ。 本当に気付けなかった理由はたった一つ。 梓に目を逸らされるのが恐くて、私の方もチラチラとしか梓の姿を見ていなかったからだ。 昨日一度だけ視線が合ったが、その時も遠目で何も気付く事ができなかった。 梓の何を分かってやれる気でいたんだよ、私は……! 心底、自分を軽蔑したくなる。 思わず梓の腕を掴んでいた手に力を入れてしまう。 だけど、梓は言った。 驚いた顔を無理に隠して、力の入らない笑顔まで浮かべて。 「さっきはすみません、律先輩……」 「すみませんって……、おまえ……」 まさか梓の方から謝られるなんて思ってなかった。 面食らった私は、掛けるつもりだった言葉が頭の中で真っ白になっていくのを感じた。 「驚かせちゃいましたよね、 急に逃げ出しなんかしちゃったりして……。 驚くなって言う方が無理な話ですよね。 本当にすみません。 でも、私、すごく寂しくなっちゃって……。 それで……」 「寂しく……なった……?」 「いえ……、ほら、今日唯先輩が来ないって事は私も分かってたんですけど、 澪先輩まで来ないなんて知らなくって……。 それが辛くて、何だか恐くなっちゃって……。 気が付いたら軽音部から飛び出してたんです」 「澪が来ないのが、そんなに辛かったか……?」 「はい……。あ、いえ、ちょっと違います。 澪先輩って言うか……、先輩達が一人ずつ減っていくのが恐くて……。 今冷静に考えると偶然だって事は分かるんですけど、 唯先輩に続いて澪先輩まで部活に来なくなって、 最後にはムギ先輩や律先輩まで来なくなっちゃうんじゃないかって。 そんな風に思っちゃって……」 「そんな事はないぞ。 私もムギも、週末までずっと部活に出るつもりだぜ? 唯だって明日には来るし、澪も今日は考え事があるから家に居るだけだ。 明日には全員揃う。全員揃って練習できるし、お茶だってできる。 ムギがFTG何とかって美味しい紅茶も入れてくれる」 「そう……ですよね。 そうですよね……。不安になる必要なんて、無いですよね」 言って、梓が笑う。 力無く、自信も無さそうに。 その表情のまま、梓は続けた。 「ごめんなさい、律先輩。 後でムギ先輩にも謝らないといけませんね。 部活に戻りましょう、律先輩。 すみません、お時間を取らせてしまって……。 恐かったけど……、もう大丈夫です。 明日には皆揃うんですもんね。だから、大丈夫です」 梓は自分の席から立ち上がる。 まだ不安感を完全には拭えてないけど、自分の力だけで立ち上がる。 自分を待つ軽音部の仲間の下に、無理をしながらでも歩き出していく。 私にできるのは、そんな梓を見守ってやる事だけだ。 梓の抱えてた悩みは、 軽音部の仲間が居なくなるかもしれないって不安感からだったんだな……。 世界の終わりを間近に迎えたこの状況だ。 確かに誰かが欠けてしまってもおかしくはない。 その不安感は私にもある。ムギや唯、澪にだってあるだろう。 でも、軽音部の全員は最後まで部活に出たいと思ってる。 明日には全員が勢揃いして、いつしか不安感だって消えていく。 それでいい。それでいいんだ。 私が嫌われてるわけじゃなくて、本当によかった。 後は梓を大切にしてやるだけだ。 梓は足を踏み出して、教室を後にしようと歩き出そうとする。 私もそんな梓を笑顔で見送って……。 って……。 「ちょっと……、律先輩……?」 私は梓の腕を掴んだままにしていた手に力を込める。 さっきみたいに自分自身を嫌悪してるからじゃない。 絶対に離さないって思ったからだ。 この手だけは絶対に離しちゃいけない。 「……あるかよ」 「えっ……? 何ですか、律先輩?」 「って、そんなわけがあるかよ! そんなのってあるかよ!」 私は腹の底から叫ぶ。 教室が揺れる。そう思えるくらいに精一杯の大声で。 今は絶叫しなきゃいけない時だった。 自分を誤魔化してはいけないんだって。 不安を見ないふりをしてちゃいけないんだって。 私は梓と自分にそれを分からせなきゃいけないんだ! 「律先輩……、何を……? 何を……言って……」 貼り付けたみたいな梓の笑顔が硬直する。 分かってないはずがない。 私より誰より、梓自身が自分に嘘を吐いている事をよく分かっているはずだった。 いや、完全には嘘じゃないか。 でも、だからこそ、余計に始末に負えない嘘なんだ。 さっきまでの梓の言葉に嘘はなかったと思う。 軽音部の仲間が減っていくのが不安だったのは確かだろうし、 それ以外の話もほとんどが梓の本心だったはずだ。 悩みの理由としては問題無かったし、よくできた話ではあった。 だけど、よく考えてみなくても分かる。 梓はこんなに簡単に誰かに悩みを語る子だったか? 抱え込んで、一人で悩み続けるのが梓って子じゃなかったか? 良くも悪くもそれが梓なんだ。 そんな梓が自分の本心を簡単に語る理由だって分かる。 本当に隠しておきたい事を隠すために、それ以外の本心を語ったんだ。 普段は隠している本心を語れば、それで納得してもらえるだろうって思ったんだろう。 部活の先輩達が居なくなるのが辛い、ってのは、それはそれで十分な悩みだ。 これが昨日の私なら、私もその梓の言葉を信じてたと思う。 梓が私の前から逃げ出した理由は、 居なくなるかもしれない私の顔を見るのが辛いから、だの何だのって適当な理由でも考えて。 だけど、残念ながらと言うべきなのかな、 今日の私にはその梓の誤魔化しは通用しなかった。 まずはこんな時期の深夜に動き回ってる梓の姿を見たからってのがある。 私はそれを梓にぶつけてみる。 「なあ、梓……。 おまえの悩みは本当にそれか? そりゃ、私達と離れるのが辛かったって悩みは嬉しいし、それは本当だと思う。 でもさ、それじゃ説明が付かないんだよ。 おまえ……、昨日、いや、今日か。 今日の深夜に何してた? 憂ちゃんと会う前に外を走り回ってただろ? 見たんだよ、偶然」 梓の硬直した笑顔が今度は強張る。 私から視線を逸らして、足下に伏せる。 その様子が私の言葉を完全に認めていたけど、言葉だけは力強く梓が言った。 「何を言ってるんですか、律先輩。 夜は憂が来るまで、家でずっとギターの練習をしてましたよ? それに、こんな時期の深夜に、どうして外を出歩かなきゃいけないんですか? そんなはずないじゃないですか。 律先輩の見間違いですよ。見間違いに決まってるじゃないですか」 口早に梓が捲し立てる。 それだけでも嘘だと言ってる様なもんだけど、私はそれについて追及しなかった。 夜に見たあの影は間違いなく梓だったんだろうけど、 見間違いと言い切られたら、それ以上話を進めようがない。 水掛け論で終わっちゃうのが関の山だ。 だったら、私にできる事は結局はたった一つ。 それは梓の事を信じてやる事だ。 いや、梓の言う事を全面的に信じるって意味じゃない。 何度も語り掛けて、いつかは梓が本当の事を言ってくれるって信じる事だ。 これまでに積み重ねた私達の関係を信じるって事だ。 それを信じられなければ、私は梓の部長でいる意味も価値もないんだ。 ムギと純ちゃんと話してきた中で、私はそう思った。 私は自慢の部長と呼ばれるに相応しい部長になりたい。 そのためにも、梓の本心から逃げちゃいけない。 「梓。見間違いだっておまえが言うなら、それでいい。 無理をするなとも言わない。 無理しなきゃ、こんな状況で生きてけないもんな……。 でもさ、おまえのその無理は違う……。違うと思う。 無理しないおまえを受け止めてくれる人の前じゃ、無理しなくてもいいと思う。 そんなに私の事が信じられないか? 本当の悩みを口にしたら、見限られるとでも思ってるのか? いや、確かに私はおまえにとっていい部長じゃなかったとは思うよ。 迷惑掛けてばっかりだったもんな……。 私を信じられないってんなら、それも仕方ない事だと思う。 おまえがそんなにやつれてるって事すら、 今日まで気付けなかった馬鹿な部長だもんな。仕方ないよ。 それなら……、それならさ……。 せめて……、せめて私以外の誰かには話してほしいんだ。 私じゃ役不足だと思うなら、唯にでも、憂ちゃんにでも、誰にでもいいから話してほしい。 おまえ自身のためだし、それが負い目になるってんなら、 駄目な部長の私の願いを聞いてやるって意味で、誰かに話してほしいんだよ……」 22
https://w.atwiki.jp/dannzyonnzuuxittizu/pages/248.html
時計塔-永夜封穴-封域3戦闘準備 戦闘戦闘開始~バフをかける 敵を倒していく 総評 時計塔-永夜封穴-封域3 今回は時計塔地下の闇エリアの最奥にある総力戦のチャレンジクエスト このチャレンジクエストの特徴はこんな感じ 闇属性の敵しか出てこない HPが多めで防御も硬め メインボスはベルフェゴール 特に制限などもなく、嫌らしい行動をしてくる敵もいない 総力戦として非常にオーソドックス 今回は総力戦の基本的な流れの解説になります 画像多めで、解説細かめ 総力戦としての流れの解説がメインなので 余計な行動はしていません 背水運用もしていません ちょっと くどいぐらいの解説多めとなっております クエスト戦績はこちらです 場所はここ ベルフェゴールはこんなやつ HP143,796はだいぶ多い 攻撃3367はめっちゃ痛い 防御も2089あるので堅い 速度573も対策しないとどんどん行動されちゃう 戦闘準備 編成を整えます これが戦闘開始用のメンバーです全員が奇襲持ちですペティエ以外は特に何も考えずに編成してます装備も何も考えていません「前衛1」の位置は戦闘開始直後に行動できるポジションなので奇襲+全体攻撃増加を持つペティエを配置しています メインバトルメンバー今回はこのメンバーで戦います編成例の「アメリア&ネルネ」の空き枠にティティとシトラを入れた編成です役割としてはアメリア、ネルネ、コロンがCTを削っていきノエルはクイックブーストとSP回復を担当しますついでにインシュアランスとセイフティウォールもしますシトラは動くだけでCT補助になるのでサブアタッカーとして動き回ってもらいますティティがメインアタッカーです光属性のエンハンスをして敵を倒していきます今回は全員が速度重視の装備をしています 戦闘 今回のバトルの方針は「完封」です 敵に1度も行動させない様に立ち回ります そしてもし行動されてしまっても大丈夫なように準備もしておきます 戦闘開始~バフをかける 戦闘に入ります敵の数は闇26です難易度はルナティックですね選択パーティーを確認したら戦闘開始です 戦闘に入るとペティエから行動が始まりますこの時点で敵のステータスなども確認しておくといいです被ダメージで能力やCTが増える敵は要チェックです今回は特にそういう敵はいませんでした ペティエがブルーモーメントを使います全体攻撃増加ですね使ったら他のユニットに入れ替わります全体攻撃増加を4人ペティエ、ルカ、ベアトリス、アニエラ全体速度増加を4人アニエラ、エフィルディス、ゴルドー、リズベルアニエラは全体の攻撃も速度も持っているので便利ですよ これが全体バフを掛け終わったところですリズベルは敵全体防御減少もあったので使っておきました味方の攻撃と速度が約200になっています200になりきって居ませんが問題ありませんメインバトルメンバーのノエルも全体速度増加を持っていますここからメインバトルメンバーに入れ替えてきます 敵を倒していく メインバトルメンバーに入れ替えました入れ替え前と比べて速度の数値がズレているユニットが居ますが端数の処理等でズレただけで実際には同等です コロンは 震撼 補助貫通100% を持っていて 包囲 防御10%削り と 攪乱 速度10%削り があるのでCT50技で殴るだけで防御と速度を削っていけますまた今回のティティはエンハンス不要なのでエーテルスフィアは他のユニットに適当に撃ってますが結果的に全く意味のない行動になってしまっていました図ではネルネに撃ってますがネルネは光属性のフラッシュオーバーを使ったほうが強いんです ノエルは随時インシュアランスやセイフティウォールを用意しててもらいます 幇助 補助スキルでSP50回復 があるので補助スキルをかける度にSP50回復します今回の場合SPが減っていくのはネルネとティティなので必要に応じて回復させます ティティは自分にフラッシュモーメントを打ちます光属性単体エンハンスです以後はエンハンスが切れないように行動しますエンハンスを維持しながら攻撃する方法はこちらに解説があります CT0技のパワーレゾナンスを打ちます非常に高い威力の技で範囲が十字形の炸裂という比較的珍しいタイプですこれが今回のバトルのメイン火力となりますこの技はCT 0なのでエンハンスは解除されませんデュレイが1ターンあるので次のターンは撃てません 次にCT50技のフリーズボルトを打ちますフリーズボルトは水属性なので光属性のエンハンスは解除されません以後はパワーレゾナンスとフリーズボルトしか使わなければ光属性のエンハンスが切れることはありませんこの時点で手前に居るブラックモノリスを倒しました ブラックモノリスの跡地にはベルフェゴールが出てきましたベルフェゴールはHPが多くて堅いだけなので特に対策は取らなくても大丈夫ですが速度の非常に速いボスなど出現と同時に対策をしたほうがいいボスもたまにいますネルネもセイフティウォールを張っていきます ネルネは敵のCT状況に関わらず全体攻撃をしていきます 震撼 補助貫通100% と 呪縛 速度20%削り があるので敵全体の速度を20%づつ確実に削っていけるからですネルネの全体技はエクスプロージョンとフラッシュオーバーがありますがどちらもCT10%削りなので属性だけ見て打ち分けが出来ますちなみにダメージを見ればベルフェゴールの防御がいかに高いかよくわかります左上なんて10倍近いダメージを食らってます アメリアは状況を見ながらアダプテーションを使っていきます全体防御増加なのですが防御ではなくSP回復目的で使っています 扶翼 補助スキルでSP100回復 を持っているのでSP100づつ回復するのは非常に大きいですアメリアとノエルを同時に起用するとヴィータやラスティナのような極悪なSP消費でもない限りSP枯渇の心配はなくなるといっていいと思います アメリアはステータス削り等は持っていないので敵のCTの貯まり具合を見てCTがほとんど無いような場合は一旦CT50技を挟んだりして調整しますまたダメージもかなり少なめですアメリアの仕事はCT削りとSP回復でスピリットブレイクやファーストエイドもあるのでうまいこと使っていきます ノエルとティティはクイックブーストを持っています今回のバトルはある程度余裕があるのでその時にCTの少ないユニットに使えばOKです余裕があるかどうかというのは味方のCT削り量と敵のCT増加量で決まりますギリギリで敵の行動を抑え込んでいる場合などは後から出てくる敵やちょっとした速度の違いなどなにかの折に敵の行動を止められなくなる場合もあります余裕のないバトルではクイックブースト等はCT削り役に優先して使います今回のバトルはアメリアとネルネの全体技だけでほぼCTを削りきれているので余裕があると言えるのです コロンのイレースドスレートは貫通でCT30%削りの効果があるCT 0技ですコロンは基本的にCT50技しか使わないので実質毎ターン貫通CT30%削りを撃てるのです今回はCT管理に余裕があるので適当に打ち込んでいますCT0技でも 包囲 防御10%削り や 攪乱 速度10%削り は効果がありますダメージもそこそこは期待できますベルフェゴールの背後の敵がHPがだいぶ減っていますね そういう時はシトラにトドメをさしてもらいますシトラはとにかくCTを消費する行動をしていればいいのでこういうトドメだったり臨機応変に動いてもらえます 揺動 補助貫通50% や 震撼 補助貫通100% はないものの 牽制 CT10%削 と 攪乱 速度10%削り を持っている上に技の方にもデバフやCT削りが揃っているのでデバッファーとしても活躍できますまた火力も意外と出ます ティティのパワーレゾナンスをベルフェゴールに撃ち込むと良いダメージが出ますしっかりと防御を削りきっているからです今回は運用の楽なエンハンス殴りで攻めていますが背水運用をすると更に火力が出たりします敵のCTをしっかり削れる状況であれば敵からの攻撃を心配しなくていいのでHP1を維持しても安心して戦えます 光属性エンハンスを掛けてチャージをしたフラッシュオーバーは割と凄いダメージが出ますただベルフェゴールのダメージを見れば分かるようにこの状態ですらティティのパワーレゾナンスの方が威力は上です 後から出てきた敵の増援がCTが溜まった状態で登場しましたそれまで順調に来ていたものがこういう後から出てくる増援で一気に崩されることもあるので準備をしておきましょう 増援に対する対策は1つはセイフティウォールやインシュアランスで仮に敵に行動され強打を受けても受け流せるようにしておくことですもう1つは、敵にトドメを指す時は仲間ユニットのCTが溜まっている状態の時にすることです今回もネルネのフラッシュオーバーで倒した後すぐにアメリアのターンが来るようにしていたのですぐにフォローに動くことが出来ています アメリアのコラップスエコーで急場を凌いだ後シトラに片方をインティミデイトで削りともう片方の始末をしてもらいますシトラも 牽制 CT10%削 を持っているのでインティミデイトはCT60%削りになっています速度の非常に速いシトラはこういう急場にも強いです じわじわ敵の数を削っていくと敵の陣形がバラバラになりますそうするとパワーレゾナンスの炸裂範囲で捉えられる敵の数が減ってきたりしますこういうところはちょっと不便ですよね パワーレゾナンスを撃った後の敵のHPがもうほとんど残っていませんベルフェゴールのHP12067はティティなら他の技でも削りきれそうです 今まではエンハンス維持のために使わなかった技を撃ってみますルミナスネビュラですね見事敵全員を倒し切ることが出来ました もうクリア済みだったので報酬は経験値だけですねこれにて終了となります 総評 今回のバトルは完封することが出来ました 1度も敵に行動させることなく倒し切りました 総力戦ではこういう戦い方が出来ます そのための準備が十分取れるようになっているんです 編成やバトルの進め方はあくまで一例です ユニットには色々な特性があるので色々と試してみるといいと思います
https://w.atwiki.jp/dfe65/pages/20.html
アンティーク時計として1種のヘビー級の投資芸術品は、前世紀80年代半ばから全世界を風靡して、人々が驚いて発見して、アメリカニューヨークセレブたちと手につけてから第二次世界大戦前のいとこ、そして引いてファッション。そこで、このレトロブームから全世界アメリカ殺到。近年、時計のコレクションの温暖化が多く、時計コレクター、同時に時計を惹かれた多くの収集家。アンティーク時計収蔵は時計収蔵の主な内容の一つであり、いくつかの収集家、特に始めたばかりの人は比較的に関心と収蔵かつ困難の一項。フランク.ミュラー 腕時計 Ref.8006SCVすべての同じ収蔵にもその学問、アンティーク時計も例外ではない。アンティーク時計収蔵の注意事項は主に以下のいくつの: 主な問題は明らかにその産地、年代、品質、機能、デザイン及び機械構造などを調べ、忍耐文字盤とムーブメント裏板や、時計、ケースなどを通じて、その落款を購入するかどうかを判断する;表牌名称の書き方と元のと同じで、ちょっと違う問題がある、多くの時計の文字盤は偽で書くとひっくり返ってまねることの製造の方法。 次に、その製品の注意を含むムーブメントと車軸完全かどうかかどうか、フランク.ミュラー 腕時計 Ref.8006SCX外見にひびが入り、アクセサリーがそろっているかどうか時正しい選択仕様を変わった、珍しい、または散りばめジュエリー、彩色上絵やエナメルなどを最高による名家の時計。くれぐれもケースだけを見て。それは直接関係アンティーク時計のコレクションの価値。もし時計の文字盤は越えて新しいや被害の、この表の価値を大きく割引。あなたの時計は磁器の文字盤を手に持って、きっと見えて文字盤にひびが入ると落ちたところか。また、一般的な表ダイヤルにブランド名やマークがついている子、よく判別ごとに1つの文字は、偽装者のためのいくつかは、常にこの方面で小さい動作。 二、針か代購。時計の針はスタイルが多く、それらの外観は設計風格と協調。例えば、満月の形、菱形、桃型など。もし違うを大きさや異なる様式の指針の改装を一緒に、コントラストを通じて判別した。また、懐中時計の中で、人々はよく見藍鋼指針。いわゆるブルー鋼指針は、時計の針が一定温度焼結を特別ブルー。この代表の伝統と芸。 三、時計ケースの底に一般表示メーカフランク.ミュラー 腕時計 Ref.8006SCZーの名前などに文字によって文字盤の上の文字の識別、経験の時計コレクターやコレクション愛好できるかどうかか見分けケース代購。製造時計ケースの材料は多種多様で、金と銀制のケースでも金属の刻印を持つ、買い手購入前には自信がある。また、地域によって生産の表が別のマークは、一般的に言って、女神頭、クラウン、山猫は金、アヒル、ライオンとゲンチアナウルヌラ花は銀。 四、ムーブメントは時計の心臓。真偽を見分けるムーブメントの、特にアンティーク時計表のコレクションは非常に重要な。骨董品で表には、しばしば別ブランドと違うの大きさのムーブメントを改装したにもかかわらず、このような改装の表を同じように時が、すでにではないオリジナルのムーブメントを採用し、その価値を収集してそこで大きく割引。コレクターがなくてもそのため困ってからかどうかは目利きのムーブメント代購。ほとんどの時計のムーブメントは板に生産者の名が刻まれて、初期の懐中時計の中で、また現れるプロデューサーの名前。ある時計ムーブメントにも見られ、人々の様々な番号。これらの番号にある表示ムーブメント統一規格の番号、ある年は出産のラベル、アンティーク時計収蔵はとても助けがあったの。 再び、アンティーク時計コレクションもや他の収蔵のように、フランク.ミュラー 腕時計 Ref.6001HSC特定のテ-マを選んで、たとえば集時計、集外国表、集集芸術表など、中国表。アンティーク時計コレクターと思ふべきで、収蔵上世紀30年代から50年代のアンティーク時計を目安にして、そのときのアンティーク時計はデザインが多く、しかも価格も手頃で、資金に耐えることができます。 多くの歴史は悠久なブランドはそれぞれ特色とスタイルに至っては、どのように选択の目、個人を見ました。アンティーク時計の値段は安くはないが、どのようにゲームでも、丰俭は人の。実は、視骨董表を一つの投資も悪くない選択。
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/48916.html
ラグナロク・ストップ R 水文明 (3) 呪文 ■S・トリガー ■この呪文を相手のターン中に唱えた時、相手はターンの残りをとばす。 ■カードを3枚まで引く。 ■残りのゲーム中、誰もターンを追加できない。 作者:スティラ フレーバーテキスト 呪文でも、時を止めろ!! 終末の時計 ザ・クロック 評価 選択肢 投票 ぶっ壊れ (0) 超優秀 (0) 優秀 (0) 普通 (0) まあまあ (0) 微妙 (0) 弱い (0) 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16148.html
○ 六回くらいムギと新曲を合わせ終わった時、 私は軽音部に向かってくる忙しない足音に気が付いた。 多分、走ってるんだろうその足音。 それは待ち合わせに遅刻しそうな時に唯が立てる足音に似てたけど、 今日は唯は憂ちゃんと過ごすはずで、ここには来ないはずだった。 勿論、澪の足音ともかなり違う気がする。 つまり、軽音部に近付いて来ているこの足音の持ち主は……。 私の身体が小さく硬直する。 心臓の鼓動が僅かにだけど速くなる。 逃げ出したあいつの姿を思い出して、胸が痛んでくる。 正直、辛いし、若干逃げ出したくもある。 でも、もう逃げられないし、逃げたくない。 まだ確認は取れてないけど、何が起こってもおかしくないこの時期、 あいつにあんな夜の道を一人で出歩かせるような事だけは、もうさせちゃいけない。 もう私があいつに嫌われているんだとしても、 嫌われてるなりにしなきゃいけない事もあるはずだ。 私は頷いて、スティックを片付ける。 近付いて来る足音をじっと待つ。 ふと視線を送ると、ムギもどこか緊張した表情で唇を閉じていた。 ムギは鈍感じゃない。 人の気持ちを察する事ができるし、近付く足音の持ち主が誰かも分かってるはずだ。 ムギも私と同じ気持ちなんだな……。 そう思うと勇気が湧いてくる。 今度こそあいつと向き合うんだって、そんな気持ちにさせてくれた。 「おはようございます! すみません、遅くなりました!」 扉が開いて、挨拶が部室内に響く。 私はムギと二人で部室の扉の方向に視線を向ける。 勿論、扉を開いたのは私達の小さくて唯一の後輩の梓だった。 走ってたせいか息を上げて、ほんの少し汗も掻いてるみたいだ。 昨日までは制服で部室に来てたのに、 今日の梓は何故か私服なのが少し気になる。 「おう、おはよう」 自分の掌にも汗を掻くのを感じながら、私は何気ない素振りで声を掛ける。 これから重大な話をしなきゃいけないんだと思うと、やっぱり緊張してしまう。 「梓ちゃん、おはよう」 ムギの声も何だか上擦ってるように聞こえた。 ムギも緊張してるんだ。 梓は自分の悩みを私だけじゃなく、誰にも語らなかったし、 それどころか自分が悩んでいる素振りすら誰にも見せないようにしていた。 自分は悩んでない。 誰にも心配される必要はない。 梓のそんな姿はかえって私達を不安にさせる。 『本当に辛い事ほど、「大好き」な人には言えないものだから』。 不意に昨日聞いた和の言葉を思い出す。 梓が私達の事を大好きかどうかは別問題としても、 本当に辛い事ほど誰かに話す事ができないのは確かだと私も思う。 私だってそうだったし、誰だってそうだと思う。 本気で悩んでるんだけど……、 って、自分から切り出すような悩みなんて、きっと本当は大した事じゃない悩みなんだ。 だから、恐い。 梓がどれだけ大きな悩みを抱えてるのか、想像もできない。 そんな悩みを私なんかがどうにかできるんだろうか。 無理じゃないかと思えて仕方がない。 私はちっぽけで凡人の単なる女子高生なんだ。 きっと、私が梓の悩みを探るのは、梓にとっても迷惑に違いない。 それでも、このまま逃げる事だけはしちゃいけないはずだ。 私と梓のお互い……な。 「今日、唯先輩が来ないらしいですね。 憂から聞きました。今日唯先輩と会えないのは残念ですけど……。 でも、唯先輩もちゃんと憂の事を考えてたみたいで、何だか嬉しいです」 寂しげな笑顔で呟きながら、 梓が長椅子に自分の鞄を置きに……いかない。 そりゃそうだ。 今日の梓は私服姿で自分のギターを持ってるだけだった。 どうして私は梓が長椅子に自分の鞄を置きに行くと思ったんだ? いや、答えは簡単だった。 梓だけじゃない。部室に入った時、私達はまず長椅子に自分の鞄を置きに行くからだ。 誰が決めたわけでもない。 その方が楽だから誰もがそうしてるってだけの習慣だ。 考えてみれば、ここ最近、梓は自分の鞄を持って来てない気がする。 まあ、授業も無いんだから、かさばる鞄を家に置いてるだけなのかもしれないけど。 「あれ? そういえば澪先輩は?」 梓は唯だけじゃなく、澪も部室にいない事に気付いたらしい。 部室内を見回しながら、何でもない事みたいに訊ねてきた。 そうだ。梓は今日澪も来ない事を知らなかったんだ。 澪が今日来ないのを知ってるのは、私がそれを話した憂ちゃんだけだからそれも当然だった。 ムギに伝える時もそうだったけど、他に悩みを持ってるはずの梓にはそれ以上に言いにくい。 嫌でも自分の身勝手さを実感させられて、ひどく申し訳なくなってくる。 でも、私はまっすぐに梓の瞳を見つめて、その言いにくい事を伝える事にした。 言わないで終わらせられる事じゃなかったし、 これから私は梓にそれよりもずっと言いにくい事を何度も言わなきゃいけないんだから。 「澪は今日、来ないんだ」 私の言葉に、梓の寂しげな笑顔が硬直した。 私が何を言っているのか理解できないって表情だった。 胸が強く痛い。心が折れそうだ。 梓は特に澪に憧れていた。その先輩と会えないなんて、かなりの衝撃だろう。 私なんかで澪や唯の代わりが務まるとも、とても思えない。 梓の中の自分の立ち位置を実感させられて、私の方が辛くなってきそうだ。 自業自得……かもな。 いや、私の辛さなんて、今は関係ないか。 今は梓の辛さや迷いの方に目を向けなきゃいけない時だ。 私は言葉を絞り出して続ける。 「ごめんな……。 別に喧嘩したわけじゃないんだけど、今日はさ、澪は……」 私のその言葉は最後まで伝える事はできなかった。 突然、梓が泣き出しそうな表情に変わって、 ギターの『むったん』も置かず、そのまま部室から飛び出してしまったからだ。 止める時間も隙もない。 本当に一瞬と言えるくらいの時間に、梓は部室からいなくなってしまった。 私は呆然とするしかなかった。 そこまで……なのか? そこまで私は梓に疎ましく思われてるのか? 唯と澪が傍にいなければ、話もしたくないくらいに私を嫌ってるのか? 嫌われてるなりに……とは思ってたけど、 ここまで嫌われてるなんて私は……、もう……。 陳腐な言い方だけど、心のダムが決壊してしまいそうだった。 ダムが決壊して、涙腺が崩壊して、その場で壊れるくらいに泣きじゃくりたい気分だ。 そんなに梓は私の事を嫌ってたのかよ……。 「りっちゃん……」 ムギが私に声を掛ける。 考えてみれば、ムギも同じ立場と言えるのかもしれない。 こんなのムギだって辛いはずだ。 泣きたくて仕方がないはずだ。 そう考えて、振り返って見てみたムギの表情は辛そう……じゃなかった。 私の予想とは裏腹に、ムギは意志を固めた強い表情で私を見ていた。 自分の辛さなんかより、優先しなきゃいけない事を分かっいてる表情。 「りっちゃん!」 もう一度ムギが言うけれど、 やっぱり情けなくて弱い私は、 辛さに沈み込みそうで、 今にも泣きそうで仕方がなくて、 私は……、私は……。 「うおりゃあっ!」 大声を出して、私はドラムの椅子から立ち上がる。 歯を食い縛り、なけなしの想いを奮い立たせて、無理矢理に立ってみせる。 「追い掛けるぞ、ムギ!」 大声でムギに宣言する。 ムギが嬉しそうに私を見てくれる。 分かってる。 立ち上がれたのは別に私自身の力ってわけじゃない。 だからってムギが励ましてくれたからでもない。 そうだ。私達は二人だから……、今は二人だから、一緒に強くいられたんだ。 その場で泣くんじゃなくて、梓をどうにかしなきゃって思えたんだ。 そういう事なんだ。 「うん!」 ムギがキーボードの電源を落として、力強く頷く。 二人で部室の扉を開き、お互いにお互いを奮い立たせて駆け出していく。 部室を飛び出し、階段を駆け降りて、一瞬私達の動きが止まる。 梓の事で不安になったわけじゃない。 その気持ちはずっと心に抱いてるけど、 そんな事ではもう私達の脚や心は止められない。 動きが止まったのは、単に梓がどこに走って行ったのか見当も付かなかったからだ。 普通ならここで私達の思い出の場所なんかを捜すんだろうけど、 残念だけど私達と梓の思い出の場所は軽音部の部室なんだ。 軽音部の部室から出てきた以上、私達はどこか別の場所を捜さなくちゃいけない。 梓はどこだ……? 教室か? 体育館か? 保健室か? それとももっと予想外の場所なのか? 下手すりゃ学校外に出てる可能性も……? 仕方ない。 ひとまずムギとは二手に分かれて片っ端から……。 「律先輩! ムギ先輩!」 瞬間、私達は呼ばれ慣れた呼び方で、遠くから誰かに呼ばれた。 でも、そう呼ぶのは梓だけのはずだなんだけど、その声は梓の声とは違っていた。 それなら誰が私達を呼んだんだ? 声がした方向を見回し、その声の持ち主が近付いて来るのを見付けて思い出した。 そういえば、あの子も私達を梓と同じ呼び方で呼んでいた。 クルクルしたツインテールの梓の親友……、純ちゃんも。 ○ 純ちゃんが息を切らし、可愛らしい癖毛を振り乱して駆け寄って来る。 今まで見た事もない、とても深刻な表情を浮かべて。 純ちゃんの事をそんなによく知ってるわけじゃない。 だけど、純ちゃんがこんなに必死な表情を浮かべる事なんて、滅多にないはずだった。 いつも笑顔ってわけじゃないけど、 私の知ってる純ちゃんは静かに微笑んで梓を見守ってくれる子だった。 つまり、よっぽどの事が起こったんだ、きっと。 「どうしたんだ、純ちゃん?」 駆け寄って来る純ちゃんの方に私達も向かう。 今は梓を追い掛けなきゃいけない時だけど、純ちゃんの事も放ってはおけなかった。 それに純ちゃんが深刻な表情で私達を呼び止める理由なんて、梓以外の理由であるはずがない。 私とムギも必死に廊下を駆ける。 私達と純ちゃんの距離は歩いて十秒掛かる距離ですらなかったけど、今はそんな時間ももどかしかった。 一秒でも早く純ちゃんと話がしたかったんだ。 私達と純ちゃんの距離が手が届くくらいになった時、私は純ちゃんの両肩を掴んで矢継ぎ早に訊ねた。 「何? どうしたの? 梓に何かあったの? もしかして走るスピードが速過ぎて、転んで怪我したとか? それとも、階段から転がり落ちたとかか? 梓は大丈夫なのか? 無事なのか? 怪我してるんだったら、すぐに保健室かどこかで治療しないと……」 早口にまくしたて過ぎてたかもしれない。 でも、私の言葉は止まらなかった。 梓が私の事を嫌いでもいい。 この際、世界が終わるのだって別問題だ。 せめて世界が終わるまでは、梓には怪我もなく無事にいてほしい。 誰だろうと何だろうと梓を傷付けさせたくない。 勿論、私自身も含めて、梓を傷付けるものを許したくなかった。 「りっちゃん、落ち着いて」 私の後ろまで駆け寄って来ていたムギが私の肩に手を置く。 落ち着けるはずない。そんな事をしている余裕なんてない。 落ち着いてなんて……。 不意に。 目の前の純ちゃんの表情が少し緩んだ事に私は気が付いた。 「純ちゃん……?」 「いえ、すみません。ちょっと嬉しくて……」 必死だった表情がどこへ行ったのか、 純ちゃんの表情は普段梓を見守ってくれるような優しく静かな微笑みになっていた。 嬉しい……? 純ちゃんが何を言っているのかは分からない。 でも、少なくとも純ちゃんの表情を見る限りは、 梓が怪我をしたとか、梓に何かの危険が迫ってるとか、そういう事は無さそうだった。 私は純ちゃんの両肩を掴んでいた手から力を抜いて言った。 「梓は無事なんだよね……?」 「はい、お騒がせしてすみません、律先輩。ムギ先輩も……。 梓は怪我なんかしてません。変質者に襲われてるって事もないですよ。 そういう意味では梓は大丈夫です」 「そういう意味で……?」 私がそう疑問を口にすると、また急に純ちゃんが真剣な表情になった。 さっきまでの深刻そうな表情とは違って、 自分が言うべき事を口にしようって強い意志を感じる表情に見えた。 純ちゃんは真剣な表情のままで口を開く。 「あの……、律先輩……? 律先輩は梓を苛めたりなんかしてませんよね?」 「え? 何なの、いきなり……。 そんな……。私は梓を苛めてなんて……」 20
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/38266.html
交錯する時空(クロス・オーバー) クロノスγ(ガンマ) R 水文明 (6) クリーチャー:アウトレイジMAX[サバイバー?] 3000 ■S・トリガー ■[SV]このクリーチャーが出た時、相手のクリーチャーを1体選ぶ。次の自分のターンのはじめまで、そのクリーチャーは攻撃もブロックもできない。 ■サバイバー 作者:恥さらしあざらし パラレルマスターズでアウトレイジのサバイバーが出たり、kaijudoのカードをオマージュした五龍神が出るなどしたため、個人的にkaijudoのカードやサバイバーのリメイクが熱い(隙自語) Kaijudoでは、サバイバーという種族のクリーチャーは《終末の時計 ザ・クロック》のイラストが流用された《The Chronarch》1体のみで、バイオハザードマークの球体も無ければ能力も共有しない、名前だけ同じ別物となっていたことから思い付いた、サバイバーと化したクロックという設定のオリカ。 《クロック》ターンの残りを飛ばす能力をそのまま使ったらゲームが壊れそうなので別の何かにしようと思って能力を考えた結果、時間を飛ばすのではなく止めるイメージで、いわゆるプリン効果と呼ばれる攻撃制限となった。無難にサバイバーデッキのトリガー枠として考慮できるか。 デュエプレの魔改造カード並みにリメイク元の原形を留めていない。原形を留めている箇所は、両者の持つ水文明、《Chronarch》のコスト6、《クロック》のパワー3000とS・トリガー、種族くらい。 自身と特定のクリーチャーが出た時に能力を発動するS・トリガー獣という《迎撃の守護者エビンビー》などに近い性質。サバイバー版の《機術士 ゾローメ》や《崇高なる智略 オクトーパ》と言った方が適切か。 フレーバーテキスト 飽くなき進化が、時空すらも浸食する。 関連 + ... 《The Chronarch》 《終末の時計 ザ・クロック》 《機術士 ゾローメ》 《崇高なる智略 オクトーパ》 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/to-love-ru-eroparo/pages/123.html
────チクタク チクタク チクタク… 気付くと唯は、広い広い公園の真ん中で一人ぽつんと立っていた ……ここってどこなの? 私… キョロキョロと周りを見渡しても誰もいない。ただ、耳にずっとチクタクと時計の針の音が聞こえていた やがてその音に混じって小さなすすり泣く様な声が聞こえ始める その声はすぐ近く────唯のすぐそばから聞こえるものだった いつの間にか、幼稚園ぐらいの小さな黒髪の女の子がうずくまる様にして隣で泣いていたのだ どうしたの? 何かあったの? クスン、クスンと泣き続ける少女。やがてゆっくりと上げたその少女の顔に唯はハッと息を呑む ────え!? ……これは…私? そして、フラッシュバックの様にいつかの光景と聞き覚えのある声が流れる 『やめて!! どーちてこんなことするの!?』 『唯わるくないのに…唯まちがってないのに…唯…唯……』 ああ…そっか。またあの時の────…… 『な…なに? 唯に用事って』 ビクビク震える手を隠す様に、唯はその小さな体でめいっぱいの強がりを見せた 『あ! きたきた』 『おせーよ! こてがわ』 『もー!! いつまでまたせるきよ!!』 小さな唯と同じぐらいの体格の男の子。唯の一回りも二回りも大きい大柄な男の子 そして、唯より少し年上な感じの女の子 どの子供も唯と同じ幼稚園の制服を身に着けている すべり台から立ち上がった三人は唯を取り囲む様にして近づいて来た 『こ、この場所は来ちゃダメなところだから早く…』 『うるせー!!!』 大柄な男の子の一声で唯は竦み上がった様に口を止めてしまう 『あんたってホントにウザい』 長い髪の毛の手で弄いながら女の子が唯の間近に迫る 『う…う、うるさくなんかないの!! だって先生がここには来ちゃ……あぅっ!』 少し大き目の手が伸び、唯の胸元を掴むと、キリキリと締め上げていった 『く…苦ちい…』 『おまえ、またやりやがったな!?』 『な…なんの事……キャー!!』 胸元を掴んだ手でドンっと力任せに唯を地面に叩きつける 地面に尻モチを付いた唯の目に薄っすらと涙が滲んだ 『い…痛い……何するのー!?』 『こてがわ、おまえナマイキだぞ!!』 『おまえ、また、せんせいにオレたちのこと言いつけただろ!!?』 『そうよ! おかげでアタシたち、先生におこられたんだからね!!』 『え…あ…あなたたちが、唯のゆーこと全然きかないから先生にお願いちて唯は…』 小柄な男の子の手が伸び、唯の長い黒髪を無造作に掴み上げる 『それがナマイキだって言ってんだよ!』 『い、いたッ! やめ…やめなさい!! こんなコトちたらダメなんだからっ』 『コイツ…』 中々態度を改めない唯に、三人のイライラはどんどん溜まっていく 『やっぱコイツ、ナマイキすぎ!!』 『あ! 私いいコト思いついちゃった!』 『いいコト?』 唯を見下ろす少女の無垢な目が次第に細められていく 『コイツのカバン隠しちゃおーよ!』 『え…』 『いろいろと大事なモノが入ってるんでしょ? 勉強どうぐとかさ? ホラ、唯ちゃんってマジメだから』 ニッコリ笑うその笑顔はどう見ても悪意に満ちたモノへと変わっている 唯は反射的にカバンをギュッと抱きしめた 『さんせ~い!』の声と共に、男の子二人の手が唯に伸びる 『あ…ダ、ダメ! ダメなの!!』 カバンを抱え込む唯の手から、力づくでカバンを奪い取ろうとする子供たち 土埃で次第に唯のキレイな制服が汚れていった 『こんなコトちたらダメなの! こんなコトいけないコトなの!!』 『さっさとカバンわたしなさいよ!』 『…う…ぅ…』 怖くて小さな手が震える。大きくて黒い瞳に涙がみるみると溢れる (唯、悪くないのに…悪くないのに……うぅ…ひっく、誰か助けて…助けて) 目をギュッと瞑り必死に耐える唯 その時、聞き慣れた声が唯の耳に届いた 『お前ら、オレの妹になにやってんの?』 『え?』 ゆっくり開けた唯の目に飛び込んできたのは、兄である遊の姿だった 『おにい……ちゃん?』 その言葉に三人の顔色は一瞬で青に変わる 『コ、コイツのにいちゃんって…』 『しょ…小学生をつれてくるなんてヒキョーよ!!』 『いいからにげろって! ヤバいって!!』 三人は唯を残してその場から一目散に逃げ出してしまった 『お前なにやってんだよ』 『お…おに…おにい……ちゃん。うぅ…』 三人が去った事よりも遊が来てくれた事に安心したのか、唯の目からみるみる大粒の涙が溢れだした 『ったく、どーせ、またなんかよけいなコトやったんだろ? そんなんだからお前はいつも…』 溢れる涙と一緒に出る大きな泣き声が遊の声をかき消していく 『ひっ…う…うぅ…うぐ…あーん!!!』 一度泣き出したら中々止まらない事を知っているだけに、遊の口から溜め息がこぼれた 『ああ、もうわかった! わかった! わかったからちょっと泣くのやめて落ちつけよ』 『…うぅ…ぅ…ひっ…く……』 叱りながらも次第に収まりつつある泣き声に安心するも束の間 唯は袖で目元をゴシゴシ拭き終えると、トテトテ走って遊に抱き付いた 『お前やめろって! こんなトコで恥ずかしいだろ』 『やだ!』 『あのな…』 『イヤなの! こーしたいの! 唯、おにいちゃんとこーしてるの!』 駄々っ子の様に遊から離れようとしない唯 まるでたった一つの拠り所であるかの様にギュッと遊にしがみ付く そんな妹が恥ずかしいのか、照れくさいのか、遊は顔を赤くしながらその頭にポンと手を置いた 『……なにやったのか知ンねーけど気をつけろよな! オレがこんなふうに来てやれない 時だってあるんだからよ』 『え!?』 唯は胸にうずめていた顔を上げると、まるで信じられないモノでも見るかの様に目をまん丸にさせた 『ウソ……や…やだ……やだ! そんなコトやだ! 唯、おにいちゃんに これからも守ってほちいの!! だから…』 涙でクシャクシャになった顔のまま力いっぱい首を横に振る妹の頭を撫でながら、 遊はニカっと笑みを浮かべた 『そーじゃなくて! オレはこれないかもしれないけど、代わりにお前のコトちゃんと 守ってくれるヤツが出てくるかもしれねーだろ?』 『そんなのいらない! 唯、おにいちゃんがいい!! おにいちゃんでいいの!!』 『いつか出てくるって! そんなヤツが。ちゃんとお前のコト守って好きになってくれて…』 『いらないのー!! おにいちゃんだけでいいの!!』 頑なに首をふるふると横に振り続ける唯に遊は苦笑を浮かべた ハッと目を覚ますと、そこは公園ではなく見慣れた自分の部屋だった 部屋の中はまだ薄暗く、外もまだ闇に包まれたまま 時計を見ようと頭を動かすと、つーっと目から水滴がこぼれ落ちた 「え? 私、泣いて…」 指で目を擦るとわずかに指先が濡れている事に唯は軽く驚く 「私何で……そっか、夢でも見てたのね」 どんな夢を見ていたのかは覚えてはいない けれど、一先ず夢のせいにしてでも自分を落ち着かせたかった どういうワケなのか胸のあたりがやけにドキドキしていた 規則正しく、だけど、いつもより大きくて、そして、どこか心地よくて (何なのコレは…) 正体不明のドキドキに悩まされながら唯が再び眠りに入ったのは明け方近くだった 今日は日曜日 唯にとって忘れる事のできない運命の一日が始まろうとしていた──── チクタク チクタク チクタク チク… そして、時計の針は進む 「ハレンチだわっ!!」 ────バタンッ!!! 勢いよく玄関の扉を開けた唯は、外に飛び出した その顔はどこかいつも以上に険しいものになっている 「もう…どうしてうちの家族ってあんなにだらしないのかしら」 ブツブツと呟いていると、外に出る前にした遊とのやり取りが頭に浮かぶ 相変わらずだらしのない格好に、直らない遊びグセ 幼い頃より幾度となく注意してきた事なのに、まるで改善される様子のない兄に、 唯の怒りが今日爆発してしまったのだ (ホント、お兄ちゃんってどうしていつも……あっ!?) 商店街を一人歩いてる唯の目にふとある連中が目に入る 「あれは…」 「リトの買い物についてきてよかった~♪」 スーパーの自動ドアの奥から買い物袋をいくつも提げたリトとその横を歩くララが現れる 「じゃ~ん♪ マジカルキョーコの入浴剤♪ どんなおフロでも一瞬で溶岩風呂の出来上がりだって!」 「大丈夫かよそれ…」 どう見ても怪しいロゴ入りの入浴剤にリトの目にありありと不信感が宿る 「平気! 平気! だってキョーコちゃんの入浴剤なんだもん!!」 「いや…それは関係ねーと思うけど……」 と、苦笑いを浮かべるリトだったが、隣を歩く目をキラキラさせているララを 見ていると「ま、いっか…」の気持ちに変わってしまう 「ねぇ、リト!! 今日一緒におフロに入ろっか」 「は!?」 一瞬で真っ赤に染まるリトにうれしそうに抱きつくララ そんな二人のやり取りをずっと聞いていた唯の肩がぷるぷると震えだす 「な…なな」 頭の中ではお風呂場でいかがわしい姿になっている二人の姿が鮮明に浮かび上がっている 唯はたまらず、その場で大声を出してしまった 「ハレンチだわーーッ!!」 「わっ」 「古手川!?」 その声量と突然の登場にリトもララも目を大きくさせた 「何考えてるのよ!? あなたたちは!!」 「え…な、なんか誤解して……」 ワナワナと両手を握りしめている唯にリトも咄嗟に言い返せなかった 「もう、何なのよ一体!!」 「唯!?」 ララの呼び声も置き去りにその場から走り去ってしまう唯 「どーしたんだろいきなり…」 「なんだかゴキゲンななめみたいですね」 ララとペケのやり取りを横に、リトは走り出す瞬間の唯の横顔を思い浮かべていた (古手川…?) リト達から少し離れると唯は息を整える様にゆっくりとした足取りで歩き始めた (外に出てきたら出てきたでこうなんだから…) が、その表情はさっきまで以上に険しく、イライラとしたモノになっている しばらく歩いていると、そんな唯の癇に障るモノがまた目に入ってしまう コンビニの前に座りこみ、通行を妨げている、見るからに不良然とした連中 (あんな所に座りこんで…!!) その光景に唯のイライラが最高潮に達してしまった (迷惑って言葉を知らないのかしら…) 普段の唯なら相手が相手だけに、あるいは声を少しだけ落としたり、言葉をもう少し選んだのかもしれない ただ、この時の唯はいつもと違っていた ずいっと三人組の不良達の前にやってくると、指でビシっと差しながら大声で怒鳴ってしまったのだ 「あなた達! そこは通行のジャマよ! 道をあけなさい」 その言葉に不良達が面倒くさそうに反応する 「あ?」 「何? オレらに言ってんの?」 「そうよ!!」 一歩も引く様子のない小柄な女子高生に、不良達はニヤニヤしながら立ち上がった 「だいたい何? そのカッコ! 親が見たら泣くわよ」 「ホホ~~、言ってくれじゃん」 すぐそばまで歩み寄って来た一人に、唯の顔に微妙に冷や汗が浮かぶ 自分より頭一つ大きいその背丈に心なしか圧倒されそうになってしまう (な、何よ…これぐらいで……) 少し声を詰まらせた事をいい事に、不良達はますます下卑た笑みを浮かべ始める 「おいこのコ、ちょっとカワイくね?」 「オレもそう思ってたトコ!」 「え?」 一瞬の隙を付いて後ろに回り込んでいた一人が、唯の両腕を後ろから羽交い絞めにした 「な!! はっ離しなさいよ!!」 「んなこと言わずに遊ぼーぜ」 「ど、どうして私があなた達みたいな人たちなんかと……うっく!!」 腕を振りほどこうにもひ弱な力ではどうする事もできない そればかりかメキメキと音を立てながらさらに力を入れようとしてくる 「…あ…く…」 唯の口からか細い息がもれた 「キレーな足~」 「え…あ、ちょっと!」 スカートに手を掛けようとする男に、怖気にも似た感触がゾクっと背中を走る (もう! 男ってどうしてこうなの…。誰か何とか言ってよ!!) そんな心の叫びを余所に、通行人や事態に気付いている者は、慌てて視線をそらしたり見て見ぬフリをしたり (明らかにこの人たち間違ってるじゃない! どうして見ないフリをするの…) 唯の中で恐怖と不安、そして、男への不信感が膨れ上がる 唯はギュッと目を瞑った 幼い日のあの時と同じように (誰か────……) 「やめろ!!! そのコを離せ────っ!!」 それは聞き覚えのある、何度も聞いた事のある声 唯はゆっくりと目を開けた (え……?) 唯の目に、必死な顔をしながらこっちに走って来るリトの姿が映る (結城くん…!? どうして…) 「古手川、こっち!!」 「あっ」 慌てふためく不良達の隙を付いて、リトは唯の手を取るとそのまま走り出した 「待ちやがれ」 後ろから聞こえる罵声を無視し二人は全力で走る 人を自転車を、縫うようにして必死な面持ちで走るリトに手を引かれながら、唯の中で、 自分でも抑えきれない何かが芽吹こうとしていた 緊張と興奮でしっとりと汗を掻いているリトの手 その手に引かれながら唯の胸はどんどん高鳴っていった 「結城…くん」 「ん!」 店から出た遊は少し遠くの方を走る見慣れた顔に足を止めた 「どーしたのォ?ユウちゃん」 隣に一緒にいる彼女の声も耳には入らない (あれ…唯じゃん) そして、その唯と一緒にいる見知らぬ顔に遊の目が大きくなる 「男…?」 「ちくしょー! どこ行きやがった」 キョロキョロと頭を巡らせる不良の一人を建物の物陰から覗き見ながら、リトは心の中で後悔した (くそっ…ララに荷物任せず一緒に来りゃよかったぜ…!) 背中に感じる一人不安な様子の唯 「と、とにかくもっと奥に行こう! ここにいたら見つかっちまう」 「そうね」 二人はなるべく足音を立てない様にしながら、路地裏へと走って行く が、少し進むとすぐにその足が止まってしまった 「ここ行き止まりだわ!」 二人の前にその行く手を遮る様に、高い金網がそびえ立っていたのだ 「…コレ乗り越えるしかないみたいだな。古手川行けるか?」 「へ…平気よ! これぐらい」 リトに促され唯は金網に足を引っ掛けながらゆっくりと登って行く 「う…ん」 「がんばれ古手…あ」 下から唯の様子を見上げていたリトは声を詰まらせた その様子に気づいた唯が何気なく下を見ると、真っ赤になったリトが自分のスカートの中を凝視していた 「こんな時まで何やってるのよ!!?」 「あ…いや…オレは」 「いいから先に登ってよ」 「わわ、ゴメン!!」 ボスっと持っていたカバンをリトに投げつけながら、ぷりぷりした顔で金網から降りる唯 「オ、オレが先行くから、古手川は後に続いてくれ」 「……」 ムスっとした顔のまま睨んでくる唯に引きつった笑みを浮かべるも、リトは難なく金網を乗り越えていった 「古手川! 早く降りてこいよ」 「ちょ…ちょっと待って!」 見上げるリトの前で、唯は金網の上で身動きが取れなくなっていた 「大丈夫か!?」 「ス…スカートがひっかかって…」 網目の出っ張りに引っかかったスカートの裾をぐいぐい引っ張って取ろうとした時、ふいに唯の体がグラリと傾く 「きゃ!!」 短い悲鳴の後、ガクンとバランスの崩れた唯の体は、そのまま地面に向かって落ちていった 「古手川っ!!」 全力で落下地点に走り寄るリト 間一髪、ドサっという音と共に唯の体はすっぽりとリトの腕の中に収まった それは、ちょうどお姫様抱っこをしているかの様な体制 唯の頬が自然と赤く染まる 「あ…ありがと…」 「お…おう」 痛みで顔を歪ませながらも決して自分を離そうとはしないリトの横顔に、唯の胸はまたトクンと音を立てた 「ダメだいねーぞ」 「あわてんな! まだ近くにいるはずだ」 怒気を孕みながら顔を並べる不良達にゆっくりと影が歩み寄る 「誰を探してんの?」 振り返る不良達の目にスラリと背の高い男の姿が映る 「あ? 何だおまえ?」 「男には用はねー。うせろ!」 まるで相手にする様子のない三人に遊はクスっと笑みを浮かべた 「…静かになったわね…」 「ああ、なんとかやりすごしたみてーだな」 二人はあの場所から少し離れたトンネルの中で腰を休めながら息を整えていた 「そう…ね」 小さく返事をするも、その心の中は息以上に乱れっぱなしだ 息を切らせながらも油断なく回りをキョロキョロするリトの横顔に、なぜだか胸がドキドキと高鳴る (私ったらこんな時に何ドキドキしてるの…) 目をそらそうにも中々そらしてくれない自分自身に唯は眉を寄せた 「しっかし古手川もムチャするよな。あんなヤツらに注意とかしたらそりゃこうなるよ」 呆れ気味のリトの口調に唯の目がゆっくりと細められる 「…じゃあ、見すごせっていうの?」 「いや…そうは言わないけど」 「じゃあ何なの?」 じ~っと見つめるその視線にリトの額に次第に汗が浮かんでくる 「だってホラ…古手川女のコなんだし、あんまりムチャは…ホラ…さ」 しどろもどろになっていくリトとは逆に、唯の心は次第に落ち着きを取り戻していく そしてだんだんと湧き上がる感情 さっき言い忘れていた事が頭に蘇る 「な、何だよ?」 ゴクリと喉を鳴らすリトに唯は静かに呟いた 「…結城くん…、さっき何げに私の胸触ったでしょ」 「え!!?」 リトの心臓が張り裂けんばかりに大きくなる さっきとは金網から落ちた唯を抱き止めた時の事 確かに思わず胸や太ももを鷲掴んでしまったワケだが──── 「あ…あれは仕方なくっつーか…その…」 大慌てで身振り手振りと言い訳を始めるリトに唯はゆっくりと立ち上がる 「ゴ、ゴメン。け、決してわざとじゃないんだ!! ホ、ホ、ホント!!」 唯は無言 俯き気味のため前髪で隠れて見えない表情が、リトの動揺に拍車を掛ける 「ふ、不可抗力っつーか助けなきゃってそれしか考えてなくて…え、えっと…」 小さく震えだす唯の肩に、もうダメだと諦めにも似た感情が生まれる その時、吹っ飛ばされる事を覚悟したリトの耳に意外な声が届いた 「…ぷっ…あはは…」 それは鈴を鳴らした様な可愛い笑い声 (え…笑っ……あの古手川が?) 信じられない物でも見るかの様にキョトンとなるリトの前で、唯は確かに笑っていた そして、唯はスッとリトの顔を見つめると本当に小さな笑顔を見せた 「…取り乱しすぎよ。カッコわる」 やわらかい、気持ちがホッとする様な、心にそっとやさしく触れるような笑顔 その感触にリトの目が丸くなる (あれ? 何…だこれ) 自分でもわからない不思議な感覚にリトは眉を顰めた 唯はくるりとリトから背を向けると、いつもの淡々とした口調とは違うどこかうれしそうな声で話し始めた 「いいわ。今回だけは許してあげる」 (なんだか気分がいいからね…) あの時────…… 『やめろ!!!』 あの時、必死な様子で助けに来てくれたリトを想うと、唯の胸はぽぉっとあったかくなっていく それは心地いい初めて味わう感触 そんな一人顔をほころばせる唯の背中にリトは遠慮がちに声をかける 「……古手川…」 「ん?」 振り返った唯の目にかなりどころか、目をまん丸にしているリトの姿があった 「どうしたのよ?」 「お前、笑ったりできるんだ…」 その言葉に今度は唯の目も大きくなる 「な! 何よ失礼ね!!」 「うう…」 駐車場で完全にノビきった三人を前に遊はペッと唾を吐きだした 「…ったく…、世話のかかる妹だねぇ」 ズボンのポケットに手を突っ込みながら呆れ気味に呟くも、その顔はどこか楽しそうだ 「さーて、唯のヤツ…少しは大人になるといーけどなァ」 「私が笑ったらおかしいっていうの!?」 「ちょ…ちょっと落ち着けって! だ、誰もそんなことは…」 「じゃあどういう意味でいったのよっ?」 顔を真っ赤にさせながら怒る唯にリトの顔は引きつりっぱなしだ 指をビシッと突き付けながら一頻りガミガミと言い続けた唯は、くるりとリトに背を向けた (もう! 何なのよ!? せっかく結城くんの事私…) 私────……何なの? 続く言葉が中々出てこない事に唯は眉を寄せた (何よコレは……胸のあたりがすごくモヤモヤする) 顔をくもらせる唯に後ろから心配そうなリトの声がかかる 「古手川」 「何よ?」 リトに背を向けたまま腕を組んで返事をする唯 自分の動揺を知られたくないのか、その口調はいつものそれに戻っている 「あ、あのさ、この後ってどーするんだ?」 「この後って……決まってるじゃない。家に帰るのよ」 首だけリトに向けてそう応えると、唯は再びふぃっと顔を背けてしまう 「そっか…。じゃあウチまで送るよ」 「え?」 「ホ、ホラ、さっきのヤツらがまだいるかもしれねーしさ」 リトの気遣いに唯はただ目を丸くさせた 「べ、別にそこまでしなくていいわよ。それに、あなただって用事とかあるんでしょ? さっき、ララさんと一緒にいたじゃない」 「ララのヤツはもうウチに帰ってるよ。それより、今は古手川のほうが心配だしさ」 「し、心配ってそんな…」 背中を向けながらも唯は複雑な心境になっていた 今日はおかしな事にリトの一言一言がなぜだか胸に響く ふとした仕草や表情に目を奪われてしまう (何よコレ…) 自分の中にある確かなモノ 正体不明のモノに唯の心はざわざわと波立つだけで、唯にソレが何なのか教えてはくれない 「古手川?」 心配そうにすぐそばまで来ていたリトに唯の体がビクンと震える 「大丈夫か? お前」 「へ…へ…平気よ! なんでもないから心配しないで」 「そっか…」 なんて言うがどう見ても様子のおかしい唯に不安感は拭えない 「でも、やっぱ送っていくよ。心配だし」 「だ、だから…」 「…つーか…、男として責任あるし、古手川になんかあったら困るしさ」 明後日の方を見ながら話すリトに唯の心拍数が急上昇し始める (な、何よそれ…それってどういう事なの) 責任。なにかあったら困る (わ、私の事そこまで想ってくれてるって事なの…) 唯の頬が知らず知らずの内に熱くなっていく 「だからさ、家の近所まででもいいから送らしてくれよ、な?」 いつにも増して頑なな態度を崩さないリトに唯はツンとそっぽを向いたまま返事をした 「わ、わかったわ。そこまで言うならお願い…」 夕暮れの帰り道、二人は少し遠回りをしながら帰っていた 会話は終始、今日あった出来事について 「…だいたいおかしいのよ! どうしてみんな間違ってるってわかってるのに何も言わないのっ?」 「まぁ…な」 隣でひたすら唯の力説を聞かされているリトは小さく相づちを打った (ホント、古手川ってマジメってゆーか…) 心の中で溜め息を吐いているリトを余所に唯の力説は続く そして、話しの内容はいつの間にか学校の風紀の乱れへと変わっていった 「これじゃ、ますます風紀を乱す生徒が急増するわ! このままだと彩南高は腐敗の 一途をたどるばかりよ! だから…」 それまで横で黙って話しを聞いていたリトの口がゆっくり開かれる 「な…なぁ、古手川」 「ん?」 「…少し肩の力抜いた方がよくないか?」 「え…」 一旦言葉を区切るリトに、唯はチラリと視線を向けた 「古手川の言う事いつも正しいけどさ…そればっかじゃ疲れると思うんだ…」 リトの声にはあきらかにいつも以上に優しい成分が込められている 「な…何よいきなり…」 その声をダイレクトで隣で聞いてしまった唯の胸は、またまたトクンと音を立て始める (ま、また私……この感じ) 唯はそんな自分を鼓舞する様に慌てて平常を取り繕った 「ふ…風紀を乱してばかりのあなたには、言われたくないわ…!」 「はは…」 「それに言っとくけど、わ…忘れたわけじゃないんだからね…。胸…触られたこと…………!」 触った時の感触を思い出してしまったのか、リトの顔が沸騰しそうなほどに赤く染まる 「はわっ!!! いや…だからあれは不可抗力で……」 「……」 隣で一人慌てる様子のリトにチラリと視線を送ると、唯はぽそっと呟いた 「…冗談よ。言ったでしょ? 今日は許してあげるって?」 「へ? あ…そーいえばそんな事…」 「だからって次したら許さないんだからね?」 「は…はは…」 少しトゲのあるその声にリトの頬がわずかに引きつる 「……でもありがと…」 「え…」 「…助けてくれて……」 小さいとても小さい呟きだったが、確かにリトの耳にその声は届いた 唯のうれしそうなやわらかい笑顔と共に (古手川って…) 一人茫然としているリトの横で唯は急に足を止めた 「もう家すぐそこだから、ココでいいわ」 「え…あ…」 「ん? 何よ? 何か言いたい事でもあるワケ?」 ツンと腰に手を当てて話す唯を前に、リトは自分でもわからずについ慌ててしまう 「そーいう事じゃなくて……あれ? なんだコレ」 「…何なの? あなたさっきから変よ」 「そそ、そーだよな。オレもそう思う……はは」 ますますおかしくなるリトに唯は軽く溜め息を吐くと、少しだけ口調を厳しくさせる 「よくわからないけど、くれぐれもおかしな事とかしないようにね!!」 「わ、わかってるって!」 それでも心配なのかしばらくリトの顔を見つめた後、唯はくるりと背を向けた 「それじゃ、もう行くわ…」 「あ、ああ」 「今日はいろいろありがと結城くん」 「気にすンなって」 ニカっと子供の様に笑うリトにふっと笑みがこぼれてしまう 「また学校でな」 「うん…」 いつもとは違う唯の口調にリトは気付かない そしてそれは唯自身も気付いていなかった 自分の中の何かが大きくなっている事に しばらく進んだ後、唯はチラリと後ろを振り返った 後ろではリトがまだ別れた場所で立っている 立ち止まった自分に首を傾げているも、本当に最後まで見ていてくれるつもりの様だ (ちゃんと守ってくれてるんだ) 唯の中でリトへの想いが大きく動き始めた 遠く遠く、唯の背中が見えなくなるまで見送ったリト 「なんつーか…」 今日一日でいろんな唯の表情や仕草を見た事にリトの中で軽い衝撃が起きていた 「古手川ってあんな風に笑うんだ…」 その中でも一番の衝撃にリトは想いを巡らせる 「……また見れるといいんだけどなァ」 リトは最後にもう一度、唯の帰って行った方向に目を向けると、夕暮れの中、家路に付いた ────…チクタク チクタク と、時計の針は進んでいく 日曜日の昼過ぎ 唯は一人街の中を歩いていた とくにどこに行こうとか、なにか買いに行こうとか、そういうわけでなく 純粋にいろんなところを歩いて見て回るだけ 気に入った店のウインドウを覗いたり、かわいい小物があれば手に取ってみたり 新しい店のケーキを食べたり、そして、時にはおもちゃ屋さんに入ったりと 普段いろんなものに縛られている唯にとって、このなんでもない自由な時間は、 一種の心のリフレッシュにもなっていた 今日は日曜ということもあり、街はいつも以上の人で溢れている 人ごみを掻きわけて一人どんどん進んでいく唯の傍らを、何組ものカップルが通り過ぎて行く ふと目をそらせば、店先やカフェで仲良く談笑している姿 腕や手を取り合いながら少し誇らしげに歩く姿 いつもなら特になんとも思わないその光景が今日は違って見える いつもならさざ波一つ立たない鋼鉄の心に、今日は小さな波が立っていた 「…………」 普段、学校でも休みの日でも一人の時間が圧倒的に多い唯にとって、今日も「普通の日」なはずだった けれど、一度揺れてしまった心は、容易に唯の中にある気持ちを抱かせる それは周りと自分との違い 日曜だというのに、朝から勉強して本を読んで掃除をしてそれから────…… 周りを見れば、どこに行くのか決めている友達同士の会話や、 見終わった映画の感想なんかを言っているカップルの姿が、すぐに見てとれる 遊び友達や彼氏がいるわけではない唯にとって、それは、今は届かない日常なのかもしれない (彼氏か…) 唯だって女の子。そりゃ恋愛に興味がないといえばウソになる 小さいころからずっと夢見てきた自分だけの理想ももちろんある 時々、うらやましいとか思っちゃう事だってあったりする でも、しかし──── (ダメよ! ダメ! 恋愛なんてハレンチだわっ) 拳を握りしめてそう強く思う唯 いつもの性格が災いして、せっかくの大切な気持ちに蓋をしてしまう (だいたい、高校生なんだから、学生は学生らしく勉学に励むのが基本なのよ!) 人と接する時以上に、自分の気持ちに対して一番不器用になってしまう唯 手を伸ばせばすぐにでも触れられるその「想い」 唯にはまだソレが見えていなかった そんな自分に心のどこかで囁き声が聞こえてくる 違う。本当は何度も見えていたし、何度も触れそうになった でも見なかった……触らなかった…… いつも想ってる人がいるはずなのに どうしてなの? ………… ……… …… … 考えれば考えるほど答えの出ない謎かけの様な問題に、胸のあたりがモヤモヤする (もう! いい加減にしてよ! 何なのよコレは) 思わず腕を振り上げたくなる衝動をぐっと我慢する唯の目に、あるコンビニが映った (あのコンビニって…) 思い出すよりも早く唯の胸がキュンと震えた (やだ…何よコレっ) 唯の意思とは無関係に高鳴る胸の鼓動 ほんのりと熱くなる頬の感触 唯は心の囁きそのままにじっとそのコンビニを見続けた 「あっ、そっか。あのコンビニって…」 ソレを意識した瞬間、トクン、と何かが音を立てた そしてまるでスイッチが入ったかのように、唯の中でちょうど一週間前の出来事が溢れ出す 『やめろ!!! そのコを離せ――――ッ!!』 トクン! 『古手川、こっち』 トクン!! 『大丈夫か!?』 トクン!!! 思い出す数だけ胸がキュンと震える そして、自分でも知らぬ間に唯の顔は赤く染まっていった (あの時、結城くん…すごく必死な顔してたな…) 唯の胸の奥がトクンと音を立て、顔に赤みが増す (…それから私の手をギュッと握ってくれて、一生懸命走ってくれて、守ってくれて…) 自然とやわらかい笑みが生まれる (結城くん…) 唯は心の中で何度もその名を反芻させる 握ってもらった手をもう片方の手で包みながら、唯はしばらくそのコンビニの前でボーっとなってしまっていた どれだけそうしていたのか、ふいに吹いた風に巻き上げられた髪に唯はハッと我に返る (何やってたのよ私は) 頭をブンブン振って慌てて表情を引き締めるも、胸のドキドキは一向に収まらない (うぅ…もぉ! 私どうしちゃったのよ!? こんなのハレンチだわ) 自分の中の正体不明の感情に唯は戸惑ってしまう 髪を整えながら必死で自分を落ち着かせようと頭を巡らせる 中々落ち着いてくれない自分の気持ちにイライラしながら、唯は普段自分が一番落ち着ける場所等を思い浮かべた 「とりあえず本屋で本でも見てそれから…」 次第にいつもの毅然とした面持ちを取り戻し始めた唯の足はすでに本屋に向かって歩き始めていた 「あれ? 古手川!?」 「ゆ、結城くん!?」 本屋の真ん中でばったりと会った二人。思わぬ出会いに思わず立ち止まってしまう 「どうしてあなたがここにいるの?」 「え! どーしてって本買いに来ただけなんだけど…」 唯はリトが手に持っている数冊の本に視線を落とした 「どーせマンガとかそんなのばかりなんでしょ?」 「ち、違うって! オレは美柑に頼まれたのを…って、古手川こそ何買いにきたんだよ?」 心外だとばかりにムッとするリトに対し、唯も負けじと顔をふいっと背ける 「私はね、参考書を買いに来たのよ! 家で勉強するために必要でしょ?」 相変わらず真面目だなァと思いながら、リトは、へ~と気のない返事を返す 「それで、その本はあったのかよ?」 「え…」 唯の表情が曇る 本屋に来てかれこれ30分以上。いろいろと探し回ったけど目当ての本は今だ見つからず そんな唯の反応に、リトは参考書のある棚に視線を向けた 平積みになった分厚い本に、びっしりと棚に並べられた様々な科目の本 見ているだけで頭がクラクラとしてくる 「で、古手川の欲しいのってどれ? オレも一緒に探すよ」 「え?」 唯はポカンとリトの横顔を見つめた 「げ…現代法学入門って本なんだけど…で、でも、あなたには関係…」 「だってお前困ってるんだろ? え……っと、にしてもすげー本だなァ」 まるで当然の事の様に棚に向き直るリトのその横顔を唯はついつい見つめてしまう また胸がキュンと締め付けられた (………………っ!!? わ、私、何見とれて…) とっさに視線をそらしてしまうが、少しするとまた横顔を見つめてしまう (もう、私いったいどーしちゃったのよっ!?) 自分でもよくわからない感情に、唯は戸惑ってしまう 「古手川」 「へ!!?」 急に名前を呼ばれた唯は、つい素っ頓狂な声を上げてしまった 「へ、じゃなくてさ。お前も探せよな…」 「え、ええそうね…。ごめんなさい」 唯は素直にそう謝ると、リトに並んで参考書を探し始める 胸はまだドキドキと高鳴ったままだった それから十数分あまり 「はぁ~、見つからないわね…」 一人肩を落とす唯に、リトも隣で溜め息を吐いた 「…これだけ探しても見つからないってコトは、やっぱないんじゃねーか? ん~…違う本屋行くか? ちょっと離れたトコにもっと大きい店あるだろ?」 唯は少し考えると首をコクンと振った 「ん~、そうね。そうするわ」 「じゃあ古手川、店の前で待っててくれよ。オレ、レジ済ませてくるからさ」 「え?」 唯はびっくりして目を丸くする 「え…も、もしかして結城くんも来るの?」 「ここまで来たら最後まで付き合うって! それに一人より二人の方が探しやすいだろ?」 「そ、それは…」 確かにその通りなのだが、これ以上リトに迷惑は掛けられない。そう思った唯は、 断ろうと声を出そうとするが、できなかった ──甘えてもいいの?── と、心のどこかでそんな声がした リトは、嫌な顔一つしていない。そればかりか返事を待っていてくれている様だ 唯は思い切ってお願いしてみる 「じゃ、じゃあ私、お店の前で待ってるから、結城くん早くきてね」 「おう」 リトはにっこり笑うとレジに向かった 「…っかしいなー…全然見つからねぇ」 リトは溜め息を吐きながら隣にいる唯に話しかける 「そっちはどーだった?」 「ダメ…見つからない」 ガックリと肩を落とすリトの横で、なぜだか唯だけは一人上機嫌だった その顔もどこかいつもよりやわらかい 「さっき店員にも聞いたんだけどさ、ちょっとわからないとか言うんだよなァ… そんなのどーしろって言うんだよ!?」 「ブツブツ文句言わないの! そんなコト言っても仕方ないでしょ?」 「そりゃそーだけど…」 リトは隣で本をぱらぱらと捲っている唯になにげなく視線を向ける その視線に気付いたのか、唯は目だけリトの方に向けた 「なに?」 「いや…なんか古手川が一人で楽しそうな顔してるからさ」 とたんに唯の顔が赤く染まる 「なんかイイ事でもあったのかなって」 「そ、そんな事ないわよ!! 私はただ……そ、そうよ! 本が好きだから、本を見るのが好きだから! それでよ!」 一人慌てる唯の顔をまじまじと見つめるリト 「へ~本が好きってなんか古手川らしいなァ。それになんか新鮮な感じがする! 古手川のうれしそうな顔って」 にっこり笑いながらそう話すリトに、唯の顔は火が噴いた様に真っ赤に染まる 「な!! な、なに変なコト言ってるのよッ」 急に怒り出す唯にリトはとっさに何度も謝った 「わわ、悪かったよ! でもそんなつもりで言ったワケじゃ…」 (もぉ、こんなところでいきなりなに言い出すのよ! バカ) 顔を真っ赤にする唯と、そんな唯にどこか納得のいかないリト 二人はその後も、いろいろ言い合いながらも本を探し続けた 「ここにもねェな…」 「そうね…」 結局、参考書は見つからず、疲労感だけが増しただけだった 棚から参考書を取り出す唯にリトはぽつりと呟く 「ここにもないってコトは、ほか探してもないんじゃねーか……?」 (え――──!?) 唯の手が止まった 「だって、この辺じゃ一番でかいトコなのにさ、ここにないってコトは…」 「そ、そんなコトないわよ!!」 思わず出てしまった大きな声に、リトばかりじゃなく周りの客達も反応する 「え、えっと……そうじゃなくて、私の探してる本は数が少ないみたいだから…だから……」 恥ずかしそうにぽそぽそと話し始める唯に、リトは笑みを浮かべる 「そーだな! じゃあ他も探してみるか」 屈託なく笑うリトの顔に唯も安心したのか、口からホっと溜め息がもれる 「ん? どーしたんだよ?」 「何が?」 リトの質問に怪訝な顔をする唯 「だって、本が見つからなかったのになんかホっとしてるみたいだからさ」 「!!?」 唯の心臓がドキリと音を立てる 「それでなんか…」 「そ、そんなわけないでしょ! なに変な勘違いしてるのよ! まったく…」 唯はツンとリトから顔を背けると、そのまま店から出て行ってしまった 「何なんだ? オレなんか悪いコト言ったっけ…?」 「もう! 早く行くわよ結城くん!!」 店の入口では唯が腰に手を当てて、リトを待っている その姿に、リトは慌てて入口へと向かった 結局、あれから3、4軒店を回ったのだが本は見つからず 二人は今、小さなカフェでお茶をしていた 「…にしても見つからねえなァ」 紅茶を飲みながら、カップに向かって愚痴るリト その目の前には、ケーキをおいしそうに食る、どこかウキウキと楽しそうな唯がいる そんな唯の様子に、スプーンで紅茶を掻き混ぜつつリトは口を開いた 「なあ、ひょっとして古手川ってケーキとか好き?」 「え!?」 急に話しをフラれた唯は、びっくりしたのか顔を赤くさせた 「ど、どうしてそんなコト聞くのよ?」 「いやだって…」 リトの視線の先には、お皿にいくつも盛られたケーキやデザート 『スイーツが食べ放題』の垂れ幕に、唯の顔つきが変わった理由がわかった気がした リトの視線に何を感じたのか、唯は言いにくそうにもごもごと小さくなる 「べ、別にキライってわけじゃなくて……。い、良いでしょ別にっ!!」 頬を膨らませながらも、白桃のタルトを口に運ぶ唯にリトは吹き出してしまう 「な!! どうして笑うのよ!! 私だって…」 「いやそーじゃなくて! 古手川がすげーおいしそうに食べるからさ。ホントに好きなんだなァって」 「う…うん」 コクンとうなずく唯にリトはにっこりと微笑む 「古手川も女の子なんだ」 「…それどういう意味?」 じと~っと睨む唯に、リトは慌てて言い訳を始める 「そ、そーいうコトじゃなくて! えっと、古手川のそんなところ見れてうれしいって言うかその…」 「え…」 唯の胸がまたまたキュンと締め付けられる 「な、何よいきなり……。そ、そんなコト言っても誤魔化されないからね!!」 「そ、そーじゃなくて! えっと…な、なんか良いなって思ってさ! その…古手川のそーゆうトコ」 唯の顔がますます赤くなっていく 「ホラ、古手川っていつも肩に力入れてる感じがするからさ。普段は見れない古手川を見れてうれしいっていうかさ…」 唯はリトの顔を見つめたまま固まっていた 頭がぼーっとして、でもはっきりとリトの声は聞こえていて 今だって本が見つからなくて、歩いて疲れているはずなのに リトといるだけで、どうしようもなく胸が高鳴ってしまう 一緒に話しているだけで、うれしくて、楽しくて トクン、トクンと、規則正しい鼓動は唯の心を締め付ける けれど、不思議と苦しみはなかった どこか、あったかいような、くすぐったいような不思議な感触 「へ、変なコトいわないのっ! もぉ…」 だから、これだけ言うのが精一杯 そんな唯の気持ちに全然気付いた様子のないリトは、一人困ったように眉を寄せる 「わ、悪かったって! だからそんなに怒んなよな」 「別に怒ってるワケじゃ…」 ブルーベリーと木苺のフランボワーズムースを口に運びながら、もごもごと話す唯 学校で見る姿とのギャップに戸惑いつつも、リトはようやく落ち着いた事態に安堵の溜め息を漏らした 「それで、この後どーする?」 「え?」 唯はスプーンでミルクプリンを掬いながらキョトンとした顔をリトに向けた 「この後だよ。ココ出た後の予定」 意味はわかる。だけど唯は応えられず、スプーンを口に入れたまま黙ってしまった もともと今日は気分転換に外に出かけただけなのに、本屋でリトと会い、本を探すため本屋を歩き回り そして、今、カフェでお茶をしている (この後って…) 唯は何も考えてはいなかった 「古手川はなんかないのか?」 応えられない。そればかりかうまく考えることもできない 急に夢から覚めたような感覚に唯の思考は停止寸前になっていた 「ん~…、古手川がなにもないなら……」 ──もうこれで終わりなの――? 唯はテーブルの下で手を握り締めた ──これで終わりたくなんかない―― と、心のどこかでそう囁くもう一人の自分がいる 唯はその囁きに気持ちを委ねようと思った 理由はわからない でもそうしなければいけない様な気がした 「あ、あのね…」 最大限の勇気を振り絞って口を開きかけた時、リトの声がそれを遮る 「あのさ、オレ行きたいトコあるんだけど、いいかな?」 「……」 「あれ? 古手川?」 怪訝な顔をするリトに、唯はムスッとした顔を向ける 「ど、どうして私の許可がいるのよ!? だいたい、行きたいところがあるなら先に言いなさいよね! おかげで私…私…」 急に言葉に詰まる唯を、リトはますます怪訝な顔をして見つめる 唯の顔は真っ赤になっていた (な、なに考えてたのよ私はっ! これじゃまるで…) 唯は赤くなりながらもチラチラとリトの様子を窺う 「ん?」 一人意味のわからないリトに唯は顔を背けると、そのまま席を立った 「と、とにかく早く行くわよ。ここにいたってなんにもならないんだし」 いそいそと店を出て行く唯の背中を慌てて追うリト 結局、いつの間にか「今日一日一緒にいる事」前提で会話をしている事に、二人は気付いた様子はなかった 「え? ゲーム?」 「そ! 今日ほしいゲームの発売日でさ。古手川はゲーム……しないよなァ…」 当たり前でしょと顔をふいっと背ける唯 けれど、本当のところ、昔はゲームは何度もしたことがあった 遊とよく対戦ゲームをしたり、遊に負けないように練習したり お互い負けず嫌いなため、何度も繰り返し遊んだ 今でも時々ゲームをする遊の横でぼーっと見ていたりもする (ホント、男子ってゲームとか好きよね) 隣でワクワクと顔を輝かせているリトの横顔に唯はそう呟いた 「ありがとうございましたー!!」 店から出た二人は、どこに行くでもなく外を歩いていた 「悪いな古手川。オレの買い物に付き合わせてさ」 「別にいいわよ。それより結城くん、ゲームばっかりしないでちゃんと勉強しなきゃダメよ! あなた最近成績下がってるんじゃないの?」 まさかこんなところで成績の話をされると思ってなかったリトは、苦い顔をする 「この前も赤点取って追試受けてたでしょ?」 小さく呻くが、図星なためなにも言い返せない 「それも数学だけじゃなくて、ほかの科目でも!」 「ま、まーそうだけどさ…よく知ってるなァ」 「風紀委員として当然よ!」 よくわからない答えを返す唯は、ふいっとリトから視線を背けた その時、ある物に目が留まる
https://w.atwiki.jp/83452/pages/16168.html
とりあえずこれ以上澪を不安にさせないように、 まずは早くいちごの話を聞かせてもらう事が先決かな。 私はいちごと一緒に立ち上がって、音楽室の隅の方まで移動する。 私の耳元に口を寄せると、いちごが囁いた。 「誰にも言わないでよ、律。 笑われたくないから」 「……笑われるような理由なのかよ?」 「違うけど」 そう囁いたいちごの頬は少し赤くなっていた。 どうも恥ずかしがっているらしい。 いちごが恥ずかしがるなんて、一体どんな理由で登校してたってんだ……? 何だか不安になりつつも、私は真剣な顔で囁き返す。 「誰にも言わないよ。笑いもしない……と思う。 聞いてみなきゃ分かんないけど、 少なくともいちごが私を信じて話してくれる事なんだ。 馬鹿にして笑ったりなんかしないよ」 「約束」 「うん、約束だ」 「じゃあ、話す。私が学校に来てた理由は……」 そうして、いちごが私の耳元でその理由を囁いた。 世界の終わりを目前にして、 クールでお姫様みたいないちごが登校してた理由は……。 「……あはっ」 思わず私は声に出して笑っていた。 笑っちゃいけないって事は分かってるのに、湧き出る笑いを止められない。 「あはははっ! そっか……! そっかあ……!」 笑いを止められない私を、 唯が不思議そうに見つめて訊ねてくる。 「どしたの、りっちゃん? そんなに面白い理由だったの?」 「いや、そういうわけじゃなくてだな……。 ははっ、あはははっ!」 途端、無表情なまま、いちごが笑いを止めない私を何度も叩き始めた。 叩いたって言っても、あまり勢いは乗せず軽くって感じだ。 いや、バトン部で鍛えたスナップの効いたそのチョップは結構痛かったが。 しかも、無表情ではあったけど、そのいちごの顔面は真っ赤だった。 よっぽど恥ずかしいんだろう。 真っ赤な顔をして、いちごは私をチョップするのを止めなかった。 冗談みたいな理由だったけど、いちごの反応からすると本当に本音だったみたいだ。 「馬鹿にしないって言ったのに。 笑わないって言ったのに。 律なら分かってくれると思ったのに。 律に話した私が馬鹿だった」 淡々とした口調だったけど、かなり恨み節がこもっていた。 こんなに心を揺らしてるいちごを見るのは初めてで、 それはとても新鮮だったけど、これ以上勘違いさせ続けるのも可哀想だった。 私は少しだけ笑いを堪えて、 でも、笑顔のままでいちごの手首を軽く掴んだ。 「悪かったよ、いちご。 つい笑っちゃったけど、馬鹿にしたわけじゃないんだよ。 誰にも話さないし、いちごが登校してた理由はずっと私の心の中にしまっとくからさ。 それに、いちごの気持ちは分かるよ。 全部じゃないけど、私もきっと同じ理由で学校に来てたんだと思う。 それが嬉しかったし、 いちごと私の理由が一緒ってのが意外でさ、それで笑っちゃったんだよな」 私の言葉を分かってくれたらしく、 いちごは私を叩くのをやめてくれたけど、 赤く染まったその顔はしばらく元に戻らなかった。 かなりの一大決心で私に話してくれたんだろうと思う。 そんないちごの様子を見ていると、また私の顔が緩んでいった。 悪いとは思うけど、でも、これだけは勘弁してもらいたい。 いつもクールないちごがこんな理由で学校に来てたなんて、 それで毎日学校を歩き回ってたなんて、嬉しくなってくるじゃないか。 嬉しくて、幸せになっちゃうじゃないか。 だって、そうじゃん? 世界の終わりを間近にして、いちごが毎日登校してた理由が……。 『学校が好きだから』なんてさ。 ○ 皆で弁当を食べ終わった後、 「練習を邪魔するのも悪いから」と和達は音楽室から出て行った。 高橋さんとアキヨは本好き同士、 いつの間にか気があったらしく、これから図書室に向かうらしい。 和はもう少しだけ生徒会の仕事をまとめるとの事だ。 憂ちゃんは次は純ちゃんのいるジャズ研に差し入れに行くそうで、 音楽の先生として純ちゃんの練習を見に行ったのか、 それともまだ憂ちゃんの弁当を食べ足らないのか、 さわちゃんも大量の眼鏡を抱えてジャズ研に向かった。 いちごは楽器に興味を持ったらしく、 キーボードやドラムを無表情ながら興味深そうに見ていた。 私が「いちごも何か楽器を演奏できるのか?」と聞いてみると、 「マラカスなら」とこれまた冗談なのか本気なのか、よく分からない返答があった。 マラカスねえ……。 マラカスもバトンみたいなもんだと思えば、いちごに似合う……のかな? それから少しだけ滞在した後、いちごもふらりと音楽室から出て行った。 『学校が好きだから』という理由で学校に来てたいちごだ。 ふらりとクラスメイトの誰かを探しに行くんだろう。 清水さんや春子なら何度か見掛けた事があるし、 もしかしたらその辺の子達に会いに行くのかもしれないな。 清水さんはともかく、春子といちごがどんな話をするのか想像も付かんが。 まあ、意外と気が合ってたりしてな。 それにしても、いちごに本当にマラカスが演奏できるんだったら、 折角だし最後のライブにゲストで一曲くらい参加してもらうのも面白いかもしれない。 マラカスを組み込めそうな曲か……。 ふわふわ時間(タイム)なんかだと、結構合うかも。 音楽室に五人残された私達は、 ムギの用意してくれたFTGFOP(よし、もう憶えた)を飲んだ後、練習に取り掛かった。 練習自体はかなり上手くいったと思う。 新曲の演奏自体はほとんど完成してたんだし、 私の知らない所で猛練習してたんだろう澪の歌声も、完璧に新曲の旋律に乗った。 これなら多分、皆に完成した新曲を届けられそうだ。 私達のこれまでの曲とは雰囲気の違う新曲に、アキヨ辺りが驚く顔が目に浮かぶ。 ただ演奏中に困ったのは、梓のインチキ臭い眼鏡姿を何度も思い出しちゃった事だ。 いちごとのやりとりのおかげでうやむやにできたけど、 不意に頭の中にその姿が浮かんで笑いを堪えるのが正直辛かった。 梓に伝えなきゃって緊張感が切れたせいもあるんだろうな。 何かツボに入っちゃってる。 これだけは本番までにどうにか克服しとかなきゃな。 でも、それ以外の点で練習に問題は無かった。 それは、あの世界の終わりを告げるみたいな空を見たからかもしれない。 あの空模様には圧倒された。 音楽室から出て行く時、アキヨや高橋さんだけじゃなく、 和やさわちゃんですらも何度も目にしたはずの空模様を見て、複雑な表情を浮かべていた。 勿論、それは私達も同じだ。 窓の外の空模様が目に入る度、否応なしに世界の終わりを実感させられて、胸が鼓動する。 恐いのかどうかは自分でも分からない。 ただ、終わりに近付いてる世界を、心の奥底から分からされる。 もう逃げようがないんだって事を。 だから、逆に覚悟が決まった。 世界が終わるのは逃げようがない現実なんだし、逃げたところで同じく世界が終わるだけだ。 世界は、 終わる。 どうしたって、 終わるんだ。 だったら、私達は私達のしたい事を、最後まで精一杯やってみせるだけだ。 それに、世界の終わりを目の前にしても、したい事がある私達は幸せだと思う。 目標に向かって進んでいける。 私達は進める。 だからこそ、生きていける。 唯がギターのギー太を奏でる。 マイペースな唯とはいえ、流石に世界の終わりの事を実感してないわけじゃないだろう。 本当は世界の終わりが悲しくて仕方が無いはずだ。 でも、いつもと変わらず、楽しそうに、幸せそうに唯は音楽を紡いでいく。 ムギがキーボードで私達を導く。 初めて会った時とは随分と違う印象になったムギ。 だけど、その本質は変わってないんだと思う。 楽しい事が好きで、全てを楽しもうという姿勢を崩さないでいて、 私達と音楽を楽しんでくれてる。 梓が楽しむ唯をフォローするみたいに、むったんを演奏する。 自由奔放な私達を真面目の型に嵌めるんじゃなく、 自由奔放なままだからこそ演奏できる曲を模索してくれるようになった梓。 それが自由な私達の中でのアクセントになって、 私や唯も新しい可能性を見つけていけるようになった。 澪……。 誰よりも臆病で、誰よりも世界の終わりを恐がってるはずの澪。 今でも逃げ出したいと心の底では思ってるのかもしれない。 だけど、澪は逃げない。 逃げずに立ち向かい、私達をベースという土台で支える。 臆病だからこそ、誰よりも多くの勇気を振り絞って、 そんな眩しい勇気の力を私達に見せてくれて、私達はその勇気に支えられている。 私……はどうだろう? 結局、私は皆を支えられたんだろうか? 唯やムギは強い子で私を支えてくれて、 梓が立ち直れたのも強い想いを持てる子だったからで、 澪に至っては私の我儘をぶつけてしまうだけだった。 大した事は何もできなかった。 そんなので部長として部を支えられたなんて、逆立ちしたって言えないけど……。 ひょっとしたら、それでもいいのかもしれない。 私は私のままで生きていけばいい。 皆、そんな私でいいって言ってくれてる。 間違えた道を行こうとしたら、澪が拳骨で引き戻してくれるだろうしな。 だから、自分がこの部に必要だったかなんて、そんな事を考えるのはもうやめよう。 誰の役に立ててなかったとしても、私は最高の仲間達に囲まれて幸せなんだ。 その想いをライブにぶつけようと思う。 それで少しでも、私の幸せを誰かに分けてあげられたら、 誰かが笑顔になってくれるなら、それだけで私は世界の終わりまで笑ってられるはずだ。 ○ ――土曜日 今日で実質的に世界は終わる。 日曜日、いつ頃に世界が終わるかは分かってないからだ。 陽の落ちる前に世界の終わりは来るらしいけど、そんな事を気にしているわけにもいかない。 結局の話、何事も無く終われるはずの最後の日が今日って事だ。 純ちゃんのライブを観終わった後、私達は徹夜で練習をしていた。 不安だったわけじゃないけど、できる限りの事はしておきたかったんだ。 形式的なものだけど和に宿泊届を出して、さわちゃんにも寝袋を借りた。 ある程度の練習を終えた後、私達は寝間着に着換える事にして、気付いた。 そういえば、パジャマもジャージも持って来てなかった事に。 でも、まあいいか、と皆で頷く。 パジャマは無いけど、服なら軽音部の負の遺産がたくさん残ってるんだ。 唯と澪が浴衣、ムギがチャイナ服、梓と私がゴスロリに着替えた。 そんなバラバラの服装で、 私達は夕方に観たジャズ研のライブを口々に語り合う。 いいライブだった。心の底からそう思う。 ジャズを観る機会自体そうは無かったんだけど、 ほとんど初めて見ると言っていいジャズバンドの本格的な演奏はカッコよかった。 当然、ジャズだからカッコいいってだけじゃなく、 純ちゃんの演奏も様になっていて、思わず舌を巻いちゃうくらいだ。 もしかしたら、澪に匹敵する実力なんじゃないか? 普段おどけてる純ちゃんの姿からは想像もできないその見事な実力。 これなら来年の軽音部も安泰だ。 ひょっとすると、今の軽音部よりよっぽどすごい部になるかも……。 それはそれで複雑な気分だけど、梓が一人軽音部に残る事にならないってのは純粋に嬉しい。 寝なきゃいけない事は分かってた。 それでも、いつまでも話し足らなくて、誰からも言葉が途切れる事が無かった。 話し終えたら、眠らなきゃいけなくなるから。 眠ったら、残り少ない朝を迎えてしまう事になるから。 朝が来なきゃいいのに……。 別れの日の朝が……。 勿論、ライブに響くし、眠らずにいていいはずがなかった。 三時を回ったくらいに、私は意を決して皆に「もう寝よう」と伝えた。 唯あたりが嫌がるかと思ってたけど、 意外にも泣きそうな顔でそれを嫌がったのは梓だった。 普段見せない梓の我儘な姿に唯達が困惑した姿を見せる。 梓もこの時間を終わらせたくないと思ってる事は嬉しかったし、 それくらい私達との時間を大切にしてくれてるんだろう。 ちょっとやそっとじゃ、梓も眠りたくない事を譲りそうになかった。 私も同じ気持ちだけど、ここを譲るわけにはいかない。 私はわざと儚そうな雰囲気を装ってから、梓に向けて言った。 「朝までずっとお休みを言い続けたいの。 だって夜が明けて欲しくないんですもの。別れの朝なんて来なければいいのに……」 少し間があったけど、しばらくして梓が「似合いませんよ」と笑ってくれた。 「中野ー!」と言いながら、私は梓の後ろに回ってチョークスリーパーを仕掛けてやる。 似合わないのは分かってるよ。 大体、これ学園祭でやったジュリエットの台詞だしな。 私の雰囲気に似合わないこの台詞を言えば、梓の頭も少しは冷えるかと思ったんだ。 結果はとりあえずは成功だったみたいだ。 梓も自分が我儘を言ってる事は気付いていたみたいで、 頭を私達に下げてから、もう寝る事を承知してくれた。 「お休みを言い続けるなんて、律先輩には似合いませんしね」と照れ隠しに笑いながら。 こうして、私達は最後の徹夜を終え、眠りに就く事になった。 それからしばらくの間、 似合わない私の台詞に対する唯の笑いが止まらなかったけどな。 まったく……、失礼な奴だ。 40